ややこしい!給与計算期間の途中で時給が変わった時の残業代、どう計算する?

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「スタッフの頑張りに応えたい!」「最低賃金も上がったし、時給を見直そう!」

経営者として、スタッフのモチベーションアップや人材確保のために、時給の改定は大切な一手ですよね。でも、ちょっと待ってください! 給与計算期間の途中で時給を変更した場合、毎月の給与計算、特に残業代の計算が少し複雑になることをご存知でしたか?

「え、そうなの?」「どうやって計算すればいいの…?」

そんなお悩みをお持ちの事業主様、ご安心ください! この記事では、給与計算期間の途中で時給が変更された場合の残業代計算について、具体的な計算方法や注意点を、わかりやすく解説していきます。これで、ややこしい計算もスッキリ解決!正しい給与計算で、スタッフとの信頼関係もさらに深めましょう。

なぜ時給変更時の残業代計算は複雑になるの?

普段、何気なく行っている給与計算ですが、実は労働基準法という法律で細かくルールが定められています。残業代(時間外手当)も同様で、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超えた労働に対しては、割増賃金を支払う義務があります。

この割増賃金の計算基礎となるのが「通常の労働時間または労働日の賃金」、つまり時給です。給与計算期間の途中で時給が変更されると、変更前の時給で計算すべき残業時間と、変更後の時給で計算すべき残業時間が出てくるため、計算が少しややこしくなるのです。

「うーん、やっぱり難しそう…」と感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫!一緒に見ていきましょう。

まずは基本!通常の残業代計算方法をおさらい

時給変更時の計算に入る前に、まずは基本的な残業代の計算方法を確認しておきましょう。

残業代は、以下の計算式で求められます。

残業代 = 1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間

それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。

  • 1時間あたりの賃金 これは、文字通りスタッフの時間給のことです。月給制の場合は、月給を1ヶ月の平均所定労働時間で割って算出します。 (例:月給20万円、年間所定労働日数245日、1日の所定労働時間8時間の場合 → 200,000円 ÷ ( (245日 × 8時間) ÷ 12ヶ月 ) ≒ 1,224円) ※各種手当(通勤手当、家族手当、住宅手当など、一部除外される手当もあります)を含めて計算する場合があるので、就業規則や賃金規程を確認しましょう。
  • 割増率 労働基準法で定められた、残業の種類に応じた割増率です。主なものは以下の通りです。
    • 時間外労働(法定労働時間を超えた労働): 25%以上 (1.25倍)
    • 休日労働(法定休日の労働): 35%以上 (1.35倍)
    • 深夜労働(午後10時から午前5時までの労働): 25%以上 (0.25倍)
      • 時間外労働が深夜に及んだ場合:25% + 25% = 50%以上 (1.5倍)
      • 休日労働が深夜に及んだ場合:35% + 25% = 60%以上 (1.6倍)
    • 時間外労働が月60時間を超えた場合: 50%以上 (1.5倍) ※中小企業も2023年4月から適用
  • 残業時間 法定労働時間を超えて労働した時間、または法定休日に労働した時間、深夜に労働した時間のことです。1分単位で正確に把握することが大切です。

これらの基本を押さえておけば、時給変更時の計算も理解しやすくなりますよ。

【本題】期間途中で時給変更!残業代はどう計算する?

さて、いよいよ本題です。給与計算期間の途中で時給が変更された場合、残業代はどのように計算すれば良いのでしょうか?

原則的な考え方は、「時給変更の前後で期間を分け、それぞれの時給に基づいて残業代を計算し、最後に合算する」というものです。なんだか面倒に聞こえるかもしれませんが、ステップごとに見ていけば大丈夫です!

具体的な計算ステップ

  1. 給与計算期間と時給変更日を明確にする :まずは、いつからいつまでの給与計算で、時給がいつ変更になったのかを正確に把握します。 (例:給与計算期間:毎月1日~末日、時給変更日:4月16日)
  2. 変更「前」の時給で計算する残業時間を集計する: 時給変更日よりも前の期間に行った残業時間を集計します。 (例:4月1日~4月15日までの残業時間)
  3. 変更「後」の時給で計算する残業時間を集計する: 時給変更日以降の期間に行った残業時間を集計します。 (例:4月16日~4月30日までの残業時間)
  4. それぞれの期間の残業代を計算し、合算する :ステップ2で集計した残業時間には「変更前の時給」を、ステップ3で集計した残業時間には「変更後の時給」を使って、それぞれ残業代を計算します。そして、その2つの残業代を合計すれば、支払うべき残業代が算出できます。

計算例で見てみよう!

言葉だけだと分かりにくいので、具体的な例で計算してみましょう。

【前提条件】

  • 給与計算期間:4月1日~4月30日(末締め)
  • 時給変更日:4月16日
  • 変更前の時給:1,000円
  • 変更後の時給:1,100円
  • 割増率:時間外労働25% (1.25)
  • 4月1日~4月15日の残業時間:10時間
  • 4月16日~4月30日の残業時間:8時間

【計算】

  1. 変更前期間(4月1日~4月15日)の残業代 1,000円 × 1.25 × 10時間 = 12,500円
  2. 変更後期間(4月16日~4月30日)の残業代 1,100円 × 1.25 × 8時間 = 11,000円
  3. 合計残業代 12,500円 + 11,000円 = 23,500円

このように、期間を分けて計算することで、正確な残業代を算出できます。

ちょっと待った!注意しておきたいポイント

計算方法は分かりましたが、いくつか注意しておきたい点があります。

  • 端数処理のルール: 1時間あたりの賃金や割増賃金額に円未満の端数が出た場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げるのが原則です(労働基準法第24条、第37条に関する通達)。ただし、1ヶ月の賃金総額の端数処理については、100円未満を四捨五入する、1,000円未満を切り捨てるといった処理は、労働者の不利にならなければ認められる場合があります。就業規則で明確にしておくと良いでしょう。
  • 深夜労働や休日労働が絡む場合 :上記の例は時間外労働のみでしたが、深夜労働や休日労働が発生している場合は、それぞれの割増率を適用して計算する必要があります。例えば、変更前の期間に深夜残業があった場合は、変更前の時給に深夜割増率(時間外深夜なら1.5倍)を乗じて計算します。
  • 就業規則や雇用契約書での規定確認: 自社の就業規則や個別の雇用契約書で、賃金の計算方法や端数処理についてどのように定められているか、改めて確認しておきましょう。法的なルールが優先されますが、労働者にとって有利な条件が定められている場合はそちらに従います。
  • 給与明細への記載方法: 従業員に渡す給与明細には、どの期間がどの時給で計算されたのか、残業時間や割増賃金の内訳が分かるように記載するのが親切です。透明性を高めることで、従業員の納得感にも繋がります。例えば、「時間外手当(~4/15)」、「時間外手当(4/16~)」のように分けて記載するのも一つの方法です。
  • 平均賃金への影響: 解雇予告手当や休業手当などを計算する際に用いる「平均賃金」は、原則として事由発生日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割って算出します。この「賃金の総額」は、当然ながら各月で正しく計算された給与の合計額です。給与計算期間の途中で時給が変更された場合、その変更を各月の給与計算に正確に反映させることが、結果として正しい平均賃金の算出に繋がります。もし、時給変更があった月の給与計算が正確でなかった場合、平均賃金の計算結果も変わってきてしまうため、特に注意が必要です。

もっと楽に!給与計算ソフト活用のススメ

「やっぱり手計算は大変そう…」「ミスが怖い…」

そう感じた事業主様もいらっしゃるのではないでしょうか。従業員数が増えてきたり、様々な雇用形態のスタッフがいたりすると、給与計算はどんどん複雑になります。

そこでおすすめしたいのが、給与計算ソフトの活用です。

給与計算ソフト導入のメリット

  • 自動計算でミスを削減: 複雑な割増賃金の計算や社会保険料の計算などを自動で行ってくれるため、計算ミスや入力漏れのリスクを大幅に減らせます。
  • 法改正にもスピーディーに対応: 毎年のように行われる法改正や保険料率の変更にも、ソフト側がアップデートで対応してくれるため、常に最新の状態で正しい計算ができます。
  • 業務効率の大幅アップ: 手作業にかかっていた時間を大幅に削減でき、他の重要な業務に時間を割けるようになります。
  • ペーパーレス化の推進: 給与明細を電子化できるソフトもあり、印刷や配布の手間、コストを削減できます。

ソフト選びのポイント

給与計算ソフトも様々です。自社に合ったソフトを選ぶためには、以下の点を考慮すると良いでしょう。

  • 自社の規模や従業員数: 小規模向けから大規模向けまで、対応できる規模が異なります。
  • 必要な機能: 勤怠管理システムとの連携、年末調整機能、マイナンバー管理機能など、自社に必要な機能が備わっているか確認しましょう。
  • 料金体系: 月額制、年額制、買い切り型など、料金体系も様々です。予算に合わせて選びましょう。
  • サポート体制: 操作方法で困ったときやトラブル発生時に、どのようなサポートを受けられるか確認しておくことも重要です。無料トライアル期間があるソフトも多いので、実際に試してみるのがおすすめです。

時給変更時の残業代計算で押さえておきたいQ&A

ここで、事業主様からよく寄せられる質問とその回答をいくつかご紹介します。

Q1: 時給変更を月の途中ではなく、遡って適用したい場合はどうすればいいですか?

A1: 従業員との合意があれば、時給の変更を遡って適用すること自体は可能です。その場合、遡及する期間の差額賃金と、それによって変動する割増賃金(残業代など)を再計算し、差額を支払う必要があります。計算が煩雑になるため、できる限り給与計算期間の開始日など、キリの良いタイミングで時給を変更するのが望ましいでしょう。

Q2: パートタイマーやアルバイトスタッフでも、残業代の計算方法は同じですか?

A2: はい、雇用形態に関わらず、労働基準法で定められた法定労働時間を超えて労働させた場合には、パートタイマーやアルバイトスタッフに対しても、正社員と同様に割増賃金を支払う義務があります。時給変更があった場合の計算方法も同様です。

Q3: もし、残業代の計算を間違って少なく支払ってしまった場合はどうすればよいですか?

A3: 気づいた時点で速やかに正しい金額を再計算し、不足分を従業員に支払いましょう。誠意をもって対応することが大切です。場合によっては、遅延損害金が発生することもあります。ミスを防ぐためにも、日頃から正確な勤怠管理と計算を心がけることが重要です。

Q4: 時給を上げるのではなく、下げる場合も計算方法は同じですか?

A4: 計算方法の考え方は同じです。ただし、時給を引き下げる場合は、労働条件の不利益変更にあたるため、原則として従業員の個別の同意が必要です。一方的な引き下げはトラブルの原因となるため、慎重な対応が求められます。

【まとめ】正しい給与計算で、より良い職場環境を

今回は、給与計算期間の途中で時給が変更された場合の残業代計算について、詳しく解説してきました。ポイントをまとめると…

  • 残業代計算の基本: 「1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間」
  • 時給変更時の原則: 変更前後の期間で分けて計算し、合算する
  • 注意点: 端数処理、深夜・休日労働、就業規則の確認、給与明細への明記
  • 効率化: 給与計算ソフトの活用も検討

給与計算は、従業員の生活に直結する非常に重要な業務です。正確な計算と支払いは、法令遵守はもちろんのこと、従業員との信頼関係を築き、モチベーションを維持・向上させる上で不可欠と言えるでしょう。

「なんだか難しそう…」と感じるかもしれませんが、一つ一つのステップを丁寧に進めれば、必ず正しく計算できます。もし不安な場合は、社会保険労務士などの専門家に相談するのも良い方法です。

今回の記事が、事業主様の日々の給与計算業務の一助となれば幸いです。正しい知識を身につけ、より良い職場環境づくりを目指していきましょう!

給与計算のお悩み、私たちにご相談ください!

ここまで、時給変更時の残業代計算について解説してきましたが、「やはり自社だけでは対応が難しいかもしれない…」「計算に時間を取られてしまい、本業に集中できない!」といったお悩みを抱えている事業主様もいらっしゃるのではないでしょうか。

毎月の給与計算は、正確性が求められるだけでなく、法改正への対応や複雑な割増賃金の計算など、専門的な知識が必要となる場面も少なくありません。万が一、計算ミスや支払い漏れが発生してしまうと、従業員からの信頼を損なうだけでなく、労働基準監督署からの指導や是正勧告を受けるリスクも伴います。

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