出向社員の給与はどちらが払う?人事担当者が知っておきたい給与計算・社会保険・税金・助成金の知識を解説!

こんにちは! 社労士事務所ぽけっとです。
企業の成長戦略や人材育成の一環として「出向」を検討される経営者様や人事担当者様も多いのではないでしょうか。
しかし、いざ出向を実施するとなると、
「出向社員の給与は、うちと出向先のどちらが負担するの?」
「社会保険や税金の手続きはどうなるんだろう?」
「何か使える助成金ってあるのかな?」
など、普段の労務管理とは異なる疑問や不安が出てきますよね。
特に給与計算や社会保険、税金の手続きは複雑で、間違いが許されない部分です。
そこで今回は、出向における給与計算の基本的な考え方から、社会保険の取り扱い、活用できる助成金、そして間違いやすい税金の話まで、人事担当者の方が押さえておくべきポイントを分かりやすく解説します。
そもそも「出向」とは?在籍出向と転籍出向の違い
まず、一言で「出向」といっても、実は「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があることをご存知でしょうか。
この違いによって、給与や社会保険の取り扱いが大きく変わるため、最初にしっかりと理解しておくことが重要です。
- 在籍出向
社員が出向元(元の会社)との労働契約を維持したまま、出向先(新しい会社)の指揮命令を受けて働く形態です。
一定期間が終了すれば、出向元に戻ることが前提となります。
一般的に「出向」という場合は、この在籍出向を指すことが多いです。 - 転籍出向(移籍出向)
社員が出向元との労働契約を終了させ、新たに出向先と労働契約を結ぶ形態です。
つまり、完全に会社を「転籍」することになります。
※今回の記事では、より多くの企業で活用される「在籍出向」を中心に解説を進めていきます。
【最重要ポイント】給与はどちらの会社が支払うのか?
在籍出向の場合、社員は出向元・出向先の両方と関係を持つため、給与をどちらが支払うのかは最も悩ましい問題です。
結論から言うと、「出向元と出向先の契約(出向契約)によって決まる」となります。
法律で明確な定めはないため、当事者間の取り決めがすべてです。
一般的には、以下の3つのパターンがあります。
- 出向元が全額支払うパターン
出向元が社員に給与を支払い、その後、出向先が出向元に対して「出向負担金」として一部または全部を支払う方法です。
出向者の生活保障の観点や、給与体系が出向元と大きく変わらないようにする配慮から、この方法が最も多く用いられています。 - 出向先が全額支払うパターン
出向先が出向社員に直接給与を支払う方法です。
この場合、出向元と出向先の給与水準に差がある場合は、その差額を出向元が「調整給」として本人に支払うケースもあります。 - 出向元と出向先がそれぞれ支払うパターン
出向元と出向先が、それぞれで定めた金額を直接社員に支払う方法です。
この場合、社員は2か所から給与を受け取ることになります。
どのパターンを選択するかは、出向の目的や両社の給与水準、事務処理の煩雑さなどを考慮して、出向契約書で明確に定めておくことがトラブル防止の鍵となります。
社会保険料(健康保険・厚生年金)の負担はどうなる?
給与の支払い元と並んで複雑なのが、社会保険の取り扱いです。
在籍出向の場合、原則として「主たる給与を支払っている会社」で社会保険の被保険者となります。
例えば、前述の給与支払いパターン1(出向元が全額支払い)のように、出向元が給与の大部分を支払っている場合は、引き続き出向元の社会保険に加入します。
この場合、出向先が出向元に支払う「出向負担金」に、社会保険料の会社負担分を含めて請求するのが一般的です。
もし、出向元と出向先の両方から給与が支払われる場合は、「二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出し、両社から支払われる給与を合算した額で標準報酬月額が決定され、保険料が按分されることになります。
【注意】労災保険は「出向先」で適用されます!
健康保険や厚生年金とは異なり、労災保険は実際に指揮命令を受けて労働している場所で適用されます。
そのため、在籍出向社員の労災保険は、出向先の保険関係で処理されるのが原則です。
万が一の業務災害に備え、この点は必ず押さえておきましょう。
出向で活用できる助成金「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」
「出向」と聞くと、コストがかかるイメージがあるかもしれませんが、人材育成を目的とした出向であれば、国の助成金を活用できる場合があります。
その代表的なものが「産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)」です。
これは、スキルアップを目的とした在籍出向により、労働者の雇用を維持する事業主に対して、出向中の賃金や経費の一部を助成する制度です。
- 助成対象となる経費
- 出向元事業主が負担する出向労働者の賃金の一部
- 出向に要する経費(教育訓練費など)
- 主な要件(一部抜粋)
- スキルアップを目的とした出向であること
- 出向期間が1か月以上2年以内であること
- 出向元と出向先が、親会社・子会社の関係にないなど、一定の独立性があること
- 出向から復帰した際に、出向前と同じ業務ではなく、新たな知識やスキルを活かせる業務に従事させる予定があること
この助成金を活用することで、企業はコストを抑えながら戦略的な人材育成を行うことが可能になります。
申請には詳細な計画書や出向契約書などが必要となり、手続きも複雑なため、検討される際はぜひ一度、私たちのような専門家にご相談ください。
【Q&Aコーナー】よくあるご質問
Q1. 出向者が出向元と出向先の両方から給与をもらっています。年末調整はどうなりますか?確定申告が必要なのでしょうか?
A1. はい、こちらは非常に重要なポイントです。結論から申し上げますと、2か所以上から給与を受け取っている場合、原則としてご自身で確定申告が必要になります。
まず、所得税の源泉徴収について整理しましょう。
- 主たる給与の会社(扶養控除等申告書を提出): 源泉徴収税額表の「甲欄」で所得税が計算され、ここで年末調整が行われます。
- 従たる給与の会社(扶養控除等申告書を未提出): 源泉徴収税額表の「乙欄」で所得税が計算されます。こちらでは年末調整は行われません。
年末調整は、法律上1人の給与所得者に対して1か所の支払者しか行うことができません。
そのため、「甲欄」で年末調整を行った会社は、他社が支払った「乙欄」の給与まで合算して年末調整を行うことはできないのです。
したがって、出向によって2か所から給与を受け取っている社員の方は、ご自身で確定申告を行い、出向元と出向先、両方の給与所得を合算した上で、年間の正しい所得税額を計算し、納税(または還付申告)する必要があります。
これは出向だからという特別なルールではなく、所得税法における基本的なルールとなります。
会社の人事担当者様は、対象となる社員の方へ、確定申告が必要になる旨を事前にアナウンスしてあげると、より親切な対応と言えるでしょう。
Q2. 出向を命じる際に、社員の同意は必要ですか?
A2. はい、原則として必要です。就業規則に出向を命じることができる旨の規定があり、出向先での労働条件(賃金、労働時間、勤務地など)が包括的に定められている場合は、個別の同意までは不要とされるケースもありますが、トラブル防止のためにも、対象となる社員に十分な説明を行い、内諾を得ておくことが望ましいでしょう。
【まとめ】複雑な出向の手続きは専門家への相談が安心です
今回は、出向における給与計算や社会保険、税金、助成金について解説しました。
在籍出向は、人材育成やグループ企業間の連携強化など、多くのメリットがある一方で、労務管理が非常に複雑になります。
- 給与の負担割合は出向契約で明確に定める
- 社会保険は原則として主たる給与を支払う側で加入(複数支払いの場合は届出が必要)
- 労災保険は出向先で適用
- 2か所以上から給与を受け取る場合は、社員本人が確定申告を行う
- スキルアップ目的なら助成金を活用できる可能性がある
これらのポイントをしっかり押さえ、出向規定や出向契約書をきちんと整備することが、後のトラブルを防ぎ、円滑な出向制度の運用に繋がります。
「自社の場合、どう進めたら良いだろう?」
「出向契約書の作り方が分からない…」
「社員への説明や助成金の申請、何から手をつければいいの?」
このようなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、社労士事務所ぽけっとにご相談ください。
専門家の視点から、貴社の状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。
【免責事項】
本記事は、掲載時点の法令や情報に基づき作成しております。法改正等により、記事の内容が現在の状況と異なる場合がございます。また、個別の事案については、具体的な状況によって取り扱いが異なる場合があります。本記事の情報を利用した結果生じた損害等については、当事務所では一切の責任を負いかねますのでご了承ください。最終的なご判断・お手続きをされる前には、必ず最新の法令をご確認いただくか、専門家にご相談ください。