従業員が熱中症で倒れた!その時間は労働時間?労災は?

うだるような暑さが続く日本の夏。
経営者や人事担当者の皆様にとって、従業員の健康管理、特に「熱中症対策」は喫緊の課題ではないでしょうか。
万が一、業務中に従業員が熱中症で倒れてしまった場合、さまざまな疑問が頭をよぎるはずです。
「倒れている間の時間は、給与計算上、労働時間として扱うべき?」
「そもそも、これって労災になるの?」
「会社として、どこまで責任を負うべきなんだろう…」
こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。
私たちは、中小企業の経営者様や人事担当者様の「困った!」に寄り添い、労務管理のお手伝いをしています。
今回は、多くの方が悩まれる「熱中症と労働時間、労災」の問題について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
【結論】倒れた時間は「労働時間」ではない。しかし…
まず、冒頭の疑問「熱中症で倒れて意識がない時間は労働時間にあたるのか?」についてお答えします。
結論から言うと、原則として労働時間にはあたりません。
労働時間とは、法律上「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。
従業員が意識を失い、業務を遂行できない状態は、使用者の指揮命令下から離れていると解釈されるためです。
しかし、ここで思考を止めてはいけません。
実務上、もっと重要なポイントがあるからです。
それは「労働災害(労災)に認定されるかどうか」です。
最も重要なのは「労災になるか?」という視点
倒れた時間が労働時間になるか否かよりも、経営者や人事担当者の皆様にとって重要なのは「業務中に発生した熱中症が労災保険の対象となるか」という点です。
労災に認定されれば、治療費や休業中の賃金が労災保険から給付されます。
これは、被災した従業員の生活を守るだけでなく、会社の経済的な負担を軽減することにも繋がります。
では、どのような場合に労災と認定されるのでしょうか。ポイントは2つです。
- 業務遂行性(ぎょうむすいこうせい)
- その災害が「会社の管理下で、業務に従事しているときに」発生したかということです。
- オフィス内での作業はもちろん、社用車での移動中や出張先での業務中も含まれます。
- 業務起因性(ぎょうむきいんせい)
- その病気(今回は熱中症)が「業務に内在する危険な要因によって」引き起こされたかということです。
- 例えば、以下のようなケースは業務起因性が認められやすいでしょう。
- 炎天下での建設作業や警備業務
- エアコンのない高温多湿な倉庫や工場での作業
- 厨房など、火気を使用する高温な場所での調理作業
これらの要件を満たし、医学的にも熱中症であると診断されれば、労災と認定される可能性が非常に高くなります。
忘れてはならない企業の「安全配慮義務」
従業員が熱中症で倒れた場合、会社は「知らなかった」「本人の体調管理不足だ」では済まされません。
企業には、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」が法律で定められています。
この義務を怠ったと判断された場合、労災保険による給付とは別に、会社が従業員から損害賠償請求をされるリスクもあります。
裁判では、会社の安全配慮義務違反が認められ、高額な賠償金の支払いが命じられたケースも少なくありません。
では、具体的にどのような対策を講じるべきなのでしょうか。
厚生労働省も推奨する具体的な対策例をご紹介します。
<企業の熱中症対策 具体例>
- 作業環境管理
- WBGT値(暑さ指数)を測定し、基準値を超える場合は作業中止や時間短縮を検討する。
- スポットクーラーやミストシャワー、遮光ネットなどを設置し、作業場所の温度を下げる工夫をする。
- 冷房の効いた休憩場所を整備し、いつでも誰でも涼める環境を作る。
- 作業管理
- 作業スケジュールを見直し、日中の涼しい時間帯に作業を組む。
- こまめな休憩時間を確保する。
- 従業員がお互いの体調を確認しあえるよう、複数人での作業を徹底する。
- 健康管理
- 作業前後に健康状態を確認する(朝礼での声かけなど)。
- いつでも水分・塩分が補給できるよう、経口補水液や塩タブレットなどを常備・配布する。
- 熱中症の危険性や予防策について、定期的に研修を行う。
これらの対策を一つでも多く実践し、記録に残しておくことが、万が一の際に会社を守ることにも繋がります。
Q&Aで解決!こんな場合はどうなる?
Q1. 休憩時間中に熱中症になった場合は労災になりますか?
A1. 労災と認定される可能性は十分にあります。 休憩時間は、本来は労働から解放された自由な時間です。しかし、その休憩が事業所の施設内で取られており、施設の環境(例:冷房が効いていない休憩室など)に問題があった場合は、「会社の管理下」で起きたものとして業務災害と認められることがあります。
Q2. 通勤中に熱中症になった場合はどうなりますか?
A2. 「通勤災害」として労災の対象となる可能性があります。 自宅から会社までの合理的な経路・方法での移動中に発症した場合は、通勤災害と認められることがあります。ただし、通勤ルートを大きく外れて私的な用事を済ませている間などは対象外となります。
Q1. 業務中に「熱中症かもしれない」と体調不良を訴え、少し休む時間はどうなりますか?
A1. 会社の指示があったかどうかで扱いが変わります。 従業員が自らの判断で業務を離れて休憩する場合、その時間は指揮命令下から外れているため原則として労働時間にはあたりません。そのため、その分の賃金を支払わなくても法律上の問題はありません(ノーワーク・ノーペイの原則)。 しかし、上司が「あそこの休憩室で30分休んで様子を見て」などと具体的な指示を出して休ませた場合は、指揮命令下にあると判断され「労働時間」となります。 ただし、賃金の有無を議論する以前に、体調不良の訴えがあった際は速やかに涼しい場所で休ませ、必要な救護を行うという「安全配慮義務」を果たすことが最も重要です。
【まとめ】備えあれば憂いなし。専門家への相談も選択肢に
従業員が熱中症で倒れた時間は、原則として労働時間にはあたりません。
しかし、より重要なのは「労災認定」と「企業の安全配慮義務」です。
夏の労務管理は、従業員の命と健康、そして会社そのものを守るために非常に重要です。
- 熱中症対策を徹底し、安全配慮義務を果たす
- 万が一の事態に備え、労災保険の知識を深めておく
これらの準備をしっかりと行うことが大切です。
「うちの会社の対策は十分だろうか?」
「労災の手続き、どう進めたらいいかわからない…」
少しでも不安や疑問を感じたら、私たち社労士にご相談ください。
専門的な知識と経験で、貴社に最適なアドバイスをさせていただきます。
従業員が安心して働ける職場環境を、一緒に作っていきましょう。
【免責事項】
本記事は、2025年6月時点の情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成しております。個別の事案については、必ず社会保険労務士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を用いて生じた一切の損害について、当事務所は責任を負いかねます。