【勤務間インターバル】義務化が提言される。休息確保に向けた議論(全6回連載・第3回)

第3回:インターバル制度

※本記事に関する重要なお知らせ※
本記事は、2025年11月に厚生労働省「労働基準関係法制研究会」より公表された報告書の内容に基づき執筆しています。解説内容は現時点での「提言」や「検討の方向性」であり、決定事項ではありません。今後の法改正議論の参考としてお読みください。

「残業で終電帰り。数時間仮眠して、翌日は朝9時から会議…」
睡眠時間を削って働くスタイルは、もはや「頑張っている証」ではなく「リスク管理の欠如」とみなされる時代です。

労働者の睡眠時間を確保するための「勤務間インターバル制度」
これについて、報告書では非常に踏み込んだ「義務化」の提言がなされました。
今回はその詳細と、義務化に備えて企業が準備すべきことを解説します。

1. 勤務間インターバル制度とは?現状の課題

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了(退勤)から、翌日の出社(始業)までに、一定時間(例えば11時間)以上の休息時間を空けることを企業に求める制度です。
EU諸国ではすでに法的に義務化されており、当たり前のルールとなっています。

日本では2019年の働き方改革関連法で「努力義務(導入するよう努めなければならない)」とされました。
しかし、導入企業はまだ少数派(数%〜十数%程度)に留まっています。
その結果、睡眠不足による健康リスクや、集中力低下による労働災害のリスクが社会全体として解消されていないのが現状です。

2. 報告書の衝撃:「努力義務」から「義務」への転換

今回の研究会報告書において、最も注目すべき点の一つが、この制度の扱いです。
報告書では、労働者の健康確保を確実にするため、「勤務間インターバル制度を原則として義務化する」方向性が明確に示されました。

具体的な時間数については、EUの基準や医学的な観点(睡眠時間を確保し、通勤や生活時間を考慮する)から「11時間」を基本としつつ、業種や業務の実態に応じて9時間や8時間とする特例を設けるかどうかが、今後の議論の焦点となりそうです。

3. 義務化された場合、現場はどうなる?

もし「11時間のインターバル」が義務化されたと仮定しましょう。
例えば、夜23時まで残業した場合、翌日の始業は「23時+11時間=翌日午前10時」以降にしなければなりません。
たとえ定時が9時開始であっても、10時まで始業を後ろ倒しにする必要があります。

これにより、以下のような働き方は見直しを迫られます。

  • 遅番→早番のシフト(飲食店・小売業等):「閉店作業(23時終了)をして、翌朝の開店作業(7時開始)に来る」といったシフトは、休息時間が8時間しか確保できないため、組めなくなります。
  • プロジェクト佳境の徹夜作業(IT・制作業等):深夜まで働いて翌朝も通常通り出社することは、物理的に禁止されます。
  • 持ち帰り残業の禁止:自宅での作業も労働時間とみなされれば、退勤時刻が遅くなり、インターバル規制に抵触する可能性があります。

4. 中小企業が今からできる「備え」

「義務化なんてされたら仕事が回らない!」という声も聞こえてきそうです。
しかし、報告書の方向性は「人の命と健康を守る」という強い意志に基づいています。
法改正を待つのではなく、今からできる対策を考えましょう。

対策のアクションプラン

  1. 現状の「インターバル時間」を計測する
    まずは直近の勤怠データを見て、退勤から翌出勤まで何時間空いているかチェックしてみましょう。
    「11時間を切っているケース」が月間でどれくらいあるか、誰に発生しているかを把握することがスタートです。
  2. 「働かせない勇気」を持つルールの検討
    インターバルを確保できなかった翌日は、始業時間を繰り下げる(その分の賃金を控除するのか、働いたものとみなすのかは就業規則で定める必要があります)といったルールを、義務化される前に試験的に導入してみるのも手です。
  3. 助成金の活用
    現在はまだ義務化されていないため、「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を活用して、制度導入のコスト(労務管理システムの改修費や、業務効率化のための設備投資など)を補助してもらえる可能性があります。
    義務化されてからでは助成金は使えません。

【まとめ】睡眠は最強のビジネススキル

十分な睡眠をとった従業員は、ミスが減り、生産性が上がり、メンタルも安定します。
義務化されるから渋々やるのではなく、「会社の利益のために従業員を寝かせる」という発想の転換が必要です。

さて、次回は経営者の皆様が特に頭を悩ませている「副業・兼業」について。
実は、法改正によって管理が少し楽になるかもしれない?という朗報(方向性)について解説します。


【免責事項】
本記事は、2025年12月7日時点で公表されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」等の情報に基づき作成しています。記事内で紹介している法改正の方向性や内容は現時点での提言であり、今後の国会審議等を経て変更される可能性があります。本記事の情報を用いて行う一切の行為について、当事務所は何ら責任を負うものではありません。具体的な実務対応にあたっては、最新の公式情報を確認するか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。