36協定だけじゃない!労使協定の「有効期間」と「代表者」の意外な盲点

こんにちは。社労士事務所ぽけっとです。
中小企業の経営者様や人事担当者様にとって、毎年恒例の行事といえば「36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)」の届出ではないでしょうか。
「36協定は1年ごとに更新するもの」という認識は広く浸透していますが、実は「それ以外の労使協定」については、いつの間にか管理が漏れてしまっているケースが少なくありません。
「一度結んだら、ずっと有効だと思っていた」
「当時の代表者がもう会社にいないけれど、どうすればいい?」
今回は、そんな意外と知られていない労使協定の有効期間のルールと、従業員代表者が変わった際のリスク、そして正しく代表者を選ぶための実務フローについて、専門家の視点から詳しく解説します。
1. 労使協定には「有効期間」があるものとないものがある
結論から申し上げますと、すべての労使協定に「1年」という決まりがあるわけではありません。
しかし、36協定については非常に厳格なルールがあります。
① 法律で有効期間の定めが「必須」なもの(36協定など)
36協定は、労働基準法により「有効期間」を定めることが義務付けられています。
この期間は、時間外労働の限度時間を計算する基準(1ヶ月や1年といった上限設定)と密接に関わるため、「1年間」とすることが最も適切とされており、実務上も1年ごとに更新・届出を行うのがルールです。
- ポイント
36協定には「自動更新」という概念が実質的にありません。
期間が過ぎれば免罰効果(残業をさせても違法にならない効果)が消滅するため、必ず期限内に「その時点の従業員代表」と結び直し、監督署へ届け出る必要があります。
② 法律で期間の定めがないもの
一方で、以下のような協定には法律上の具体的な期間制限がなく、「有効期間を定めない(無期限)」ことも可能です。
- 賃金控除の協定(給料から社食代や親睦会費を天引きする場合など)
- 一斉休憩の除外に関する協定
- フレックスタイム制の協定(※清算期間が1ヶ月以内の場合などは届出不要)
これらは、一度締結すれば「異議がなければ自動更新する」といった運用が可能ですが、だからこそ「代表者の不在」という落とし穴に注意が必要です。
2. 従業員代表者が「退職」または「昇進」した時のリスク
ここが今回の最も重要なポイントです。
たとえ期間の定めがない協定であっても、締結当時の「労働者側の代表者(過半数代表者)」が、現在もその資格を維持しているか確認が必要です。
代表者が退職してしまった場合
労使協定は「会社」と「締結時点での代表者」の間で結ばれるものです。
判例や通説では、「締結時に適正な手続きで選ばれた代表者であれば、その後に退職したとしても、協定自体の効力は直ちには失われない」と考えられています。
しかし、「自動更新」条項がある場合は話が変わります。
更新のタイミングで代表者がすでに不在である場合、「今の従業員の過半数の意思を確認した」とは言えず、更新手続きが無効とされるリスクがあります。
代表者が退職した際や、次回の更新タイミングで、新しい代表者を選び直して結び直すのが実務上のやり方です。
代表者が「管理監督者」になった場合
特に危険なのが、当時の代表者が課長や部長に昇進し、労働基準法上の「管理監督者」になった場合です。
過半数代表者の絶対条件は「管理監督者でないこと」です。
代表者が管理職になった時点で、その人は「従業員の代表」としての資格を喪失します。
この状態で協定を放置し、形だけの自動更新を続けていると、労働基準監督署の調査が入った際に、「選任手続きが不適切であり、協定自体が無効である」と判断され、多額の未払い残業代や罰則に繋がる恐れがあります。
3. 失敗しない!過半数代表者の選出実務フロー
代表者が不在になったり、資格を失ったりした場合は、以下のステップで正しく新しい代表者を選出しましょう。
ステップ1:選出目的の公示
「36協定を締結するため」「賃金控除の代表を決めるため」など、何のために代表者を選ぶのかを、掲示板やチャット等で全従業員(パート・アルバイト含む)に周知します。
ステップ2:候補者の決定
立候補、あるいは推薦によって候補者を決めます。
候補者が「管理監督者」でないことを必ず再確認してください。
ステップ3:選出(投票・信任)
「民主的な方法」で選出します。
- 推奨: 挙手、投票、持ち回り決裁、メールでの信任。
- NG: 会社が指名する(「総務のAさん、今年もよろしく」は厳禁)、親睦会長が自動的に代表になる。
ステップ4:過半数の確認
選出された人が、全労働者(休職者や管理職含む分母に対し、非管理職の過半数)の支持を得ていることを確定させます。
ステップ5:選出結果の記録
選出日時、方法、結果を記録(議事録化)し、36協定届等に正しく反映させます。
4. 【事例別】こんな時は新しく更新(結び直し)が必要です!
- 代表者が退職、あるいは定年退職後に再雇用された → 形式上も「別の立場」となるため、速やかな再選任と結び直しが安全です。
- 代表者が役職につき、管理監督者(経営者と一体的な立場)になった → 【即対応が必要】 代表資格が失われているため、その後の更新は無効となります。
- 会社の従業員数が大幅に増減した → 「過半数」の代表性が疑わしくなるため、信頼性の観点から再確認が適切です。
- 数年前から同じ名前の代表者で自動更新を続けている → 実務上、現在の社員が代表者の顔を知らない状態は、選任プロセスの正当性を疑われる要因になります。
5. 信頼される会社であるために:社労士からのアドバイス
労使協定は、会社を法的なトラブルから守る「防波堤」です。
特に36協定は、これがなければ1分1秒の残業も違法となってしまいます。
「36協定を更新する毎年のタイミングで、他の協定(賃金控除など)の代表者が現役か、管理職になっていないかをセットで点検する」
このシンプルなルーチンを構築することが、最もコストパフォーマンスの良い労務リスク対策です。
【Q&A】よくあるご質問
Q:過半数代表者は「1つの協定」につき「1人」選ぶ必要がありますか?
A:いいえ、一人の代表者が複数の労使協定を兼ねることは可能です。ただし、選出時の公示で「〇〇協定と〇〇協定の代表者を選ぶ」と明示しておく必要があります。
Q:管理職しかいない事業場はどうすればいいですか?
A:管理監督者のみで構成される事業場でも36協定は必要ですが、代表者は「管理監督者以外」から選ぶ必要があります。このような特殊なケースは、ぜひ専門家へご相談ください。
【まとめ】
労使協定の管理は、単なる事務作業ではなく「適正な経営」の証です。
「今の代表者は誰だっけ?」「有効期間を気にしたことがなかった」という経営者様、人事担当者様。
まずは一度、社労士事務所ぽけっとへお気軽にご相談ください。
貴社の状況をプロの目でチェックし、安心・安全な職場環境づくりをサポートいたします。
免責事項: 本記事の内容は、執筆時点の法令等に基づいた一般的な解説です。36協定の具体的な起算日や期間設定、管理職の範囲などは個別判断が多いため、必ず管轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご相談ください。本記事の利用により生じた損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねます。


