賞与保険料が0円でも提出が必要?退職月や育休中の「賞与支払届」実務マニュアル

「今月、賞与を支給したけれど、社会保険料は引かなくていいはず。この場合、賞与支払届って出さなきゃいけないの?」
中小企業の経営者さまや人事担当者さまから、このようなご相談をよくいただきます。
特に「退職後の支給」や「育休中の支給」、さらには「退職する月に支払う賞与」は、保険料の控除が「ゼロ」になるケースがあるため、判断に迷うポイントです。
しかし、結論から言うと、「保険料がかからない=提出不要」ではありません。
間違った対応をすると、従業員の将来の年金額に影響したり、年金事務所の調査で修正を求められたりするリスクがあります。
今回は、実務で間違いやすい「賞与支払届」の提出基準を、ケース別に分かりやすく整理しました。
1. 基本の確認:なぜ「賞与支払届」を出すのか?
賞与支払届は、単に「今の社会保険料を計算するため」だけのものではありません。
一番の目的は、「従業員の年金記録を正しく管理するため」です。
厚生年金の受給額は、現役時代の給与や賞与の額(標準報酬)に基づいて決まります。
そのため、保険料がかからない免除期間中や、退職間際のタイミングであっても、「いくら支払われたか」という記録を国に残しておく必要があるのです。
2. 【ケースA】退職した「翌月」に賞与を支給する場合
結論、「賞与支払届」の提出は不要です。
解説
社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格は、退職日の翌日に失われます。
賞与支払届の対象となるのは、原則として「支給日時点で被保険者である人」です。
- 退職日: 6月30日
- 資格喪失日: 7月1日
- 賞与支給日: 7月10日
この場合、7月10日の時点ですでに会社の社会保険からは外れているため、社会保険上の「賞与」には該当せず、届出も保険料控除も必要ありません。
3. 【ケースB】育児休業(産休)中に賞与を支給する場合
結論、「賞与支払届」の提出が「必須」です。
保険料はゼロなのに、なぜ出すの?
育休中や産休中の従業員は、申請によって社会保険料が免除されています。
そのため、会社負担分も本人負担分も保険料は0円です。
しかし、ここが重要なポイントです。
「保険料は免除されるが、賞与の額(標準賞与額)は年金記録に登録される」というルールになっています。
もし届出を忘れてしまうと、その従業員の年金記録には賞与の履歴が残らず、将来もらえる年金額が減ってしまうことになります。
従業員の不利益を防ぐためにも、必ず提出しましょう。
4. 【ケースC】賞与を支払った「同じ月」に退職する場合
ここが実務で最も間違いやすいポイントです。
「末日に退職するかどうか」で、保険料の有無が変わります。
① 6月30日に退職し、6月中に賞与を支払った場合
- 資格喪失日: 7月1日(翌月)
- 社会保険料: かかります(控除が必要)
- 賞与支払届: 提出が必要
6月30日まで被保険者(資格喪失が7月)であるため、6月分の月額保険料と同様に、賞与保険料も発生します。
② 6月29日に退職し、6月中に賞与を支払った場合
- 資格喪失日: 6月30日(同月中)
- 社会保険料: かかりません(控除不要)
- 賞与支払届: 提出が必要
ここが盲点です。月の末日より前に退職した場合、その月の社会保険料(月額分)はかかりません。
賞与も同様に保険料はかかりませんが、「支給日に被保険者であった」ことに変わりはないため、賞与支払届の提出は必要となります。
【実務のポイント】
「保険料が0円だから提出しなくていい」と思い込まず、「支給日に在籍(被保険者)していたか」を基準に判断しましょう。
5. その他、実務で迷うケース
70歳以上の従業員に賞与を支払った場合
70歳を過ぎると厚生年金保険の被保険者ではなくなりますが、「70歳以上被用者算定基礎・月額変更・賞与支払届」の提出が必要です。
これは、年金の受給額を調整する「在職老齢年金」の計算に賞与額が必要なためです。
賞与の支給自体がなかった場合
以前は「不支給」の届出が必要でしたが、現在は賞与を支払わなかった場合の「総括表」などの提出は原則不要となっています。
支払ったときだけ、漏れなく提出すると覚えておきましょう。
【まとめ】判断チェックリスト
混乱したときは、以下の表を確認してください。
| ケース | 保険料の控除 | 賞与支払届の提出 | 判断のポイント |
| 退職した翌月に支給 | なし | 不要 | 支給日に被保険者ではない |
| 育休中に支給 | なし(免除) | 必要 | 将来の年金額に反映させるため |
| 末日に退職する月に支給 | あり | 必要 | 月末時点で被保険者である |
| 末日より前に退職する月に支給 | なし | 必要 | 支給日に被保険者であれば届出は必須 |
「今回の賞与、この人は届出が必要?」と迷った際は、後から修正の手間がかかる前に、ぜひ専門家へご相談ください。
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点(2026年1月)の法令に基づいた一般的な解説です。個別の事案については、管轄の年金事務所または社会保険労務士にご相談ください。本記事の情報に基づく行動により生じた結果について、当事務所は一切の責任を負いかねます。


