【連勤規制の検討】「4週4休」が見直しへ?シフト管理への影響を考える(全6回連載・第2回)

第2回:連勤規制・休日

※本記事に関する重要なお知らせ※
本記事は、2025年11月に厚生労働省「労働基準関係法制研究会」より公表された報告書の内容に基づき執筆しています。
解説内容は現時点での「提言」や「検討の方向性」であり、決定事項ではありません。今後の法改正議論の参考としてお読みください。

「繁忙期だから、ちょっと無理して2週間ぶっ通しで働いてもらう」。
これまで現場の合意の上で、合法的に行われてきたこうした運用が、2026年以降は法律違反になるかもしれません。

第2回となる今回は、報告書で示された「連続勤務の規制強化」について、その背景にある「現行法の抜け穴」と、改正された場合に実務へ与える影響を深掘りします。

1. 現行ルールの「4週4休」に潜む落とし穴

まず、現在の労働基準法の休日ルールをおさらいしましょう。
原則は「毎週1回の休日」を与えることです。
しかし、「変形休日制」という制度を就業規則に定めて採用すれば、「4週間のうちに4日の休日」があれば良いとされています。

このルールを極端に解釈すると、以下のようなシフトの組み方が理論上可能になってしまいます。

  • 最初の4週間の「初めの4日間」を休みにする。
  • 次の4週間の「終わりの4日間」を休みにする。

この間の期間をつなげると、計算上は最大48日間の連続勤務が可能になってしまうのです。
もちろん、ここまで極端な例は稀ですが、「20日連勤」程度であれば、繁忙期の小売店や建設現場などで発生している実態があります。

こうした長期連勤は、疲労の蓄積を招き、過労死や精神疾患の大きな要因になります。
そのため、今回の報告書ではこの「合法的な抜け穴」を塞ぐことが議論の中心となりました。

2. 報告書で示された新ルール案:「14日以上の連勤禁止」

研究会の報告書では、労働者の心身の健康を確保するため、「一定期間以上の連続勤務を禁止する」という方向性が打ち出されました。

具体的な日数については、今後の労働政策審議会での議論になりますが、現在の労災認定基準において「2週間以上にわたって連続勤務を行った場合」が心理的負荷の評価対象となっていることから、「14日以上の連続勤務」を一つのラインとして規制する案が有力視されています。

つまり、「どんなに忙しくても、2週間に1回(または4週間に4回かつ、一定間隔で)は必ず休日を入れなければならない」というルールになる可能性があります。
「休日出勤」扱いで割増賃金を払えば働かせても良い、ということではなく、「働かせること自体が禁止」される可能性がある点に注意が必要です。

3. 「法定休日のあらかじめの特定」も義務化へ

連勤規制とセットで議論されているのが、「法定休日の特定義務化」です。

現在は「土日のどちらかが法定休日で、もう片方は所定休日(法定外休日)」というように、後から「こっちが法定休日だったことにしよう」と言えるような、柔軟(悪く言えば曖昧)な運用をしている企業も少なくありません。

しかし、報告書では、「法定休日をあらかじめ特定(明確化)すること」を義務付ける方向性が示されています。
必ずしも「毎週日曜日」と固定することだけが求められるわけではありませんが、例えばシフト制の場合でも「シフト表の中で、どの休日が法定休日なのか」を事前に確定させておく必要があります。

これが義務化されると、以下のような影響が出ます。

予想される影響

① 割増賃金の厳格化

事前に特定された「法定休日」に働いた場合は、必ず1.35倍の休日割増賃金が必要になります。
後から「別の休みを法定休日に振り替えよう」という操作が難しくなります。

② シフト調整の精度向上

「とりあえず出勤させて、後で休みを調整する」という運用ができなくなり、計画段階で法定休日を確定させる必要があります。

4. 現場のシフト管理者はどう備えるべきか

もしこれらの改正が実現すれば、シフト作成担当者の業務は複雑化します。
今のうちから検討できる対策を挙げてみましょう。

  • 勤怠システムの設定見直し:「13日連勤になったら本人と管理者にアラートを出す」といった機能が必須になります。システム会社への確認が必要です。
  • 人員配置の再考(多能工化):特定の熟練スタッフに業務が集中し、代わりがいない状態(属人化)だと、その人は休みたくても休めません。「Aさんが休んでもBさんが対応できる」ような多能工化(クロススキルトレーニング)が急務です。
  • 振替休日のルール徹底:休日出勤が必要な場合、事後報告ではなく、必ず「事前に」振替休日を指定する運用を社内に浸透させる必要があります。

【まとめ】健康を守るための「休ませる技術」

「14日も休まず働けば、パフォーマンスは落ちる」これは科学的にも明らかです。
法改正がどうなるかに関わらず、長期連勤を前提とした業務計画は、リスク管理の観点からも見直すべき時期に来ています。

今回の報告書の内容は、経営者に対して「休ませる技術(マネジメント能力)」の向上を求めているとも言えます。
「忙しいから」は理由にならなくなる時代が近づいています。
次回は、さらに踏み込んだ「休息」の議論、すなわち「勤務間インターバル制度」について解説します。


【免責事項】
本記事は、2025年12月7日時点で公表されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」等の情報に基づき作成しています。記事内で紹介している法改正の方向性や内容は現時点での提言であり、今後の国会審議等を経て変更される可能性があります。本記事の情報を用いて行う一切の行為について、当事務所は何ら責任を負うものではありません。具体的な実務対応にあたっては、最新の公式情報を確認するか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。