代休と振休、月またぎの給与計算はどうする?違いと注意点をわかりやすく解説

振休と代休実は全くの別物!月まだぐとどうなる?!

「急な仕事で、社員に休日出勤をお願いすることになった…」
中小企業の経営者様や人事担当者様にとって、このような場面は決して珍しくないかと思います。

休日出勤をしてもらった後、代わりの休みを取ってもらう際に登場するのが「振替休日(振休)」「代休」です。
この二つ、似ているようで実は全くの別物。
特に、休日出勤した月と休みを取る月がずれる「月またぎ」の処理は、給与計算を複雑にする厄介な問題です。

「割増賃金の計算は?」
「月の所定労働時間はどうなるの?」
そんな疑問を抱えている担当者様も多いのではないでしょうか。

こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。
私たちは、中小企業の皆様の「ちょっと聞きたい」に寄り添うパートナーとして、給与計算や社会保険手続きのサポートをしています。

今回は、意外と知らない「振休」と「代休」の違い、そして多くの方が悩む「月またぎ」の処理方法について、具体例を交えながら分かりやすく解説していきます。
正しい知識を身につけて、適切な労務管理とスムーズな給与計算を実現しましょう!

まずは基本から!「振替休日(振休)」と「代休」の決定的な違い

月またぎの処理を理解するために、まずは「振休」と「代休」の基本的な違いをおさらいしましょう。
ポイントは「休日の交換を事前にしたか、事後にしたか」です。

1. 振替休日(振休)とは?

振休とは、あらかじめ「本来休日だった日」と「労働日」を入れ替えることを指します。

  • タイミング:休日出勤をさせるに、入れ替える日(振替休日)を指定する。
  • :「今度の日曜日(休日)に出勤してもらう代わりに、来週の火曜日(労働日)を休みにしますね」と事前に約束するケース。

この場合、もともと休日だった日曜日は「労働日」となり、労働日だった火曜日が「休日」になります。
単に休日が移動しただけなので、休日労働にはならず、割増賃金(1.35倍など)は発生しません。

2. 代休とは?

代休とは、事後的に、休日労働の代償として休みを与えることを指します。

  • タイミング:休日労働をさせたに、代わりの休みを与える。
  • :「急遽、日曜日に出勤してくれてありがとう。代わりに、来週の火曜日に休んでいいですよ」と事後に休みを付与するケース。

この場合、日曜日の出勤はあくまで「休日労働」です。そのため、休日労働に対する割増賃金(1.35倍など)の支払いが必要になります。
そして、後日取得した代休の日は「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、賃金は発生しません(欠勤と同じ扱い)。

振替休日(振休)代休
タイミング事前に休日と労働日を交換事後に代わりの休みを付与
休日労働なしあり
割増賃金不要必要(休日労働分)
根拠就業規則等での事前の定めが必要法律上の定めはなく、就業規則等で定めるのが望ましい

【本題】パターン別・給与計算の正しい手順

ここからは、2つのパターンに分けて、給与計算の具体的な手順と注意点を解説します。

【パターンA】振替休日制度(振替出勤+振替休日)を利用する場合

これは、あらかじめ休日と労働日を入れ替える方法です。

① 振替出勤日(もともと休日だった日)の給与計算

まず、出勤した日の賃金計算です。この日は事前に「労働日」に変更されているため、法的には「休日労働」にはなりません。

  • 休日割増賃金(1.35倍〜)は不要です。
  • ただし、注意点があります。
    この振替出勤によって、その週の労働時間が法定労働時間である「週40時間」を超えた場合、40時間を超えた分は「時間外労働」となり、割増賃金の支払いが必要です。
    ▼割増率の考え方【重要ポイント】 法律では、時間外労働の賃金単価を通常の1.25倍以上にするよう定めています。
    月給制の従業員の場合、月給にはすでに通常勤務時間分(1.0倍)が含まれていると考えられるため、給与計算の実務では、時間外労働時間に対して割増部分である0.25倍以上を乗じた金額を「追加で」支払うのが一般的です。
    「1.25倍を丸ごと上乗せする」と過払いになってしまうため、ご注意ください。

② 振替休日(もともと労働日だった日)の扱い

次に、休んだ日の扱いです。
この日は「休日」になっているため、労働義務はありません。
月給制の場合、この日に休んでも給与額は変わらず、賃金控除も発生しません。

▼月またぎで処理する場合の実務的な方法

振替休日が出勤した月と異なる月になると、月々の勤怠管理が複雑になりがちです。
そこで実務上、就業規則等に定めておくことを前提に、以下のような賃金相殺の処理も認められています。

  1. 振替出勤した月:出勤した事実に基づき、まず通常勤務1日分(1.0倍)の賃金を支払う。
  2. 振替休日を取得した月:休んだ事実に基づき、通常勤務1日分(1.0倍)の賃金を控除する。

このように給与の支払と控除で相殺することで、管理を簡素化する方法です。

【最重要注意点】
この方法は、あくまで通常勤務時間分(1.0倍)の相殺処理に過ぎません。
振替出勤によって週40時間を超えた場合の時間外割増賃金(0.25倍以上)は、この処理とは別に、必ず出勤した月の給与で支払う必要があります。
この点を忘れると賃金未払いになりますので、十分にご注意ください。

【パターンB】代休制度(休日出勤+代休)を利用する場合

これは、休日労働をさせた後で、埋め合わせとして休みを与える方法です。

① 休日出勤日の給与計算

まず、出勤した日の賃金計算です。この出勤は、あくまで「休日労働」そのものです。

  • 労働時間に対して、1.35倍以上の休日割増賃金の支払いが必要です。
  • 給与明細には「休日労働手当」などと明記し、支払う賃金に含めます。

② 代休の扱い

次に、休んだ日の扱いです。
代休は、労働が免除された日に過ぎず、賃金は発生しません(ノーワーク・ノーペイの原則)。

  • 月給制の場合、1日分の基本給を給与から控除します。
    これは、月の所定労働時間は変わらないものの、そのうちの1日分を働かなかった(欠勤した)ものとして取り扱う、という考え方です。
  • 給与明細には「代休控除」「欠勤控除」などと記載すると分かりやすいです。

▼月またぎの場合

「割増賃金を支払う月」と「代休取得で賃金を控除する月」がずれるため、給与計算の際にはそれぞれの月の処理を正しく行う必要があります。

【知っておきたい注意点】代休の取得と「出勤率」への影響

代休の取得は法律上の義務ではなく、休日労働に対する割増賃金を支払っていれば、会社は代休を与えなくても問題ありません。
しかし、代休の扱いについては、特に「年次有給休暇の付与」に関する重要な注意点があります。

年次有給休暇を付与する条件の一つに「出勤率が8割以上」であることが定められています。
原則として、代休を取得した日は「出勤した日」とはみなされません。
そのため、出勤率の計算(出勤日 ÷ 総所定労働日数)において、代休取得日は分母の「総所定労働日数」に含まれたまま、分子の「出勤日」にはカウントされないため、欠勤と同様に、出勤率を下げる要因となります。

ただし、これは法律で定められた最低基準の扱いです。
会社は労働者にとって有利になるよう、就業規則で独自のルールを定めることができます。
例えば、「代休取得日は、出勤率の算定上、出勤したものとみなす」あるいは「総所定労働日数から除外する」といった規定を設けることで、従業員が不利益を被らないようにすることが可能です。

この取り扱いは賞与の査定などにも影響しうるため、会社としてはルールを明確に定め、従業員の方は自社の就業規則を確認することが非常に重要です。

Q&Aコーナー

Q1. 振替出勤をすれば、割増賃金は一切払わなくて良いんですよね?

A1. いいえ、それは誤解です。
「振替出勤」は休日労働ではないため休日労働割増(1.35倍〜)は不要です。
しかし、週の労働時間が40時間を超えた分は時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要です。
月給制の場合、基本給に加えて、時間外労働の時間数に応じた0.25倍以上の割増賃金を「追加で」支払う必要があります。

Q2.結局、どちらの制度で運用するのが良いですか?

A2. 管理のしやすさやコスト面を考えると、割増賃金の発生を抑えられる「振替休日制度」がおすすめです。
ただし、この制度は「事前に」休日を特定する必要があるため、急な休日出勤には対応しづらい側面もあります。
業務の繁閑に合わせて、両方の制度を就業規則に定めておき、状況に応じて使い分けるのが最も現実的でしょう。

Q3. 代休の取得期限はありますか?

A3. 法律上の定めはありませんが、賃金請求権の時効(当面は3年)がひとつの目安となります。
しかし、あまり長期間放置すると、未払賃金の問題や労働者の健康管理上の問題に発展する可能性があります。
就業規則で「休日労働があった日から〇ヶ月以内」といったように、できるだけ具体的な取得期限を定めておくことを強く推奨します。

【まとめ】正しい知識で、安心の労務管理を

今回は、「振替休日制度」と「代休制度」における賃金計算と休日の扱いの違いについて解説しました。

  • 振替休日制度
    • 振替出勤:休日割増は不要。ただし、週40時間を超えれば0.25倍以上の時間外割増を追加で支払う必要あり。
    • 振替休日:通常の休日と同じ。月またぎの場合、管理を簡素化する賃金相殺の運用も可能(要就業規則)。
  • 代休制度
    • 休日出勤:1.35倍以上の休日割増の支払いが必要。
    • 代休:取得した日は無給となり、賃金が控除される(欠勤と同様の扱い)。
  • 共通
    • どちらの制度を適用するにしても、就業規則での明確なルール作りがトラブル防止の鍵です。

日々の業務に追われる中で、こうした複雑な勤怠管理や給与計算をミスなく行うのは大変な作業です。
もし少しでも不安を感じたら、私たち専門家にご相談ください。

社労士事務所ぽけっとは、いつでも皆様の味方です。
労務管理に関するお悩みや給与計算のアウトソーシングなど、お気軽にお問い合わせいただければ、サポートさせていただきます。


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