【完全版】従業員が入社する時の準備リスト|必要な書類から手続きの流れまで

【完全版】 人事担当者向け 入社手続きの教科書

新しい従業員を迎えることは、会社にとって大きな喜びであり、事業成長の新たな一歩です。
しかしその一方で、経営者や人事担当者の方は、「どんな書類を準備すればいいんだろう?」「手続きに抜け漏れがあったらどうしよう…」といった不安を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。

従業員の入社手続きは、単なる事務作業ではありません。
会社と従業員の信頼関係を築き、安心して働いてもらうための大切な第一歩です。
また、法律で定められた手続きを正しく行うことは、企業のコンプライアンス遵守の観点からも非常に重要です。

この記事では、従業員が入社する際に会社が準備すべきことを網羅的にリストアップしました。
「絶対に準備が必要なもの」と「任意だけど準備しておくと安心なもの」に分けて、専門知識がない方にも分かりやすく解説します。
さらに、近年主流となりつつある便利なツールを活用した効率化の方法もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

【最重要】法律で定められた必須の準備リスト

まずはじめに、法律で会社に義務付けられている、必ず準備しなければならない書類や手続きについて解説します。
これらが漏れていると、後々大きなトラブルに発展する可能性もあるため、確実に押さえておきましょう。

1. 労働条件通知書 兼 雇用契約書

会社は従業員を雇い入れる際、賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する義務があります。
これを「労働条件通知書」といいます。特に、以下の事項は書面で明示することが法律で定められています。

  • 労働契約の期間
  • 就業の場所、従事すべき業務の内容
  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇など
  • 賃金の決定、計算・支払いの方法、締切り・支払いの時期
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

口頭での約束は「言った・言わない」のトラブルの原因になります。
後々のトラブルを避けるためにも、労働条件通知書に加えて、双方が合意した証として署名・捺印する「雇用契約書」も取り交わしておくことが理想的です。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として一体化した書面を作成すると効率的です。

2. 社会保険(健康保険・厚生年金)の資格取得手続き

法人の事業所や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所は、原則として社会保険の強制適用事業所となります。
正社員や、週の所定労働時間および月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であるパート・アルバイトは、社会保険に加入させる義務があります。

従業員の入社(事実発生)から5日以内に、管轄の年金事務所へ「被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
従業員からは基礎年金番号とマイナンバーを提出してもらいましょう。

3. 雇用保険の資格取得手続き

雇用保険は、従業員が失業した際の生活を支える給付などを行うための保険です。
以下の条件を両方満たす従業員は、原則として加入義務があります。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上の雇用見込みがあること

従業員を雇用した月の翌月10日までに、管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。
従業員からは雇用保険被保険者証(前職で加入していた場合)を提出してもらいます。

4. 税金に関する書類の回収

従業員の給与から所得税を天引き(源泉徴収)するために必要な書類です。従業員に記入してもらい、回収します。

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
    従業員に配偶者や扶養親族がいるかどうかを確認し、毎月の給与から差し引く所得税の額を計算するために提出してもらいます。
    その年最初の給与支払日の前日までに提出してもらう必要があります。
  • 源泉徴収票(前職分)
    年の途中で入社した従業員の場合、年末調整を行う際に前職の給与と合算する必要があるため、提出を依頼します。

5. 法定三帳簿の作成・整備

労働基準法により、会社は以下の3つの帳簿を作成し、保管することが義務付けられています。これらを「法定三帳簿」と呼びます。新しい従業員の情報も速やかに追加しましょう。

  • 労働者名簿: 従業員の氏名、生年月日、履歴、住所などの基本情報を記載した名簿です。
  • 賃金台帳: 従業員一人ひとりの給与の支払状況(労働日数、労働時間数、基本給、手当、控除額など)を記録した台帳です。
  • 出勤簿: タイムカードやICカードの記録、自己申告など、従業員の出退勤時刻を記録したものです。

【任意】準備しておくと安心な書類リスト

次に、法律上の義務ではありませんが、会社のルールを明確にし、労務リスクを軽減するために準備しておくことが望ましい書類です。

1. 誓約書

従業員に会社のルールを守ってもらうことを約束させるための書類です。
入社時に取り交わすことで、従業員の意識を高める効果が期待できます。

  • 入社誓約書
    就業規則や社内ルールを遵守することを誓約してもらいます。
  • 機密保持および個人情報保護に関する誓約書
    在職中および退職後に、業務上知り得た会社の機密情報や個人情報を漏洩しないことを約束させます。
    特に情報管理が重要な業種では必須と言えるでしょう。

2. 身元保証書

従業員が会社に損害を与えた場合に、身元保証人が連帯して賠償責任を負うことを約束する書類です。
万が一のトラブルに備える意味合いがありますが、保証人の負担が大きいため、近年では提出を求めない企業も増えています。

3. 給与振込先の届出書

給与を振り込むための金融機関の口座情報を提出してもらう書類です。
正確な情報を得るために、通帳のコピーなどを添付してもらうと確実です。

4. 緊急連絡先届

業務中に本人に万が一のことがあった場合や、無断欠勤が続く場合などに連絡するための家族の連絡先を提出してもらいます。
個人情報のため、管理には十分な注意が必要です。

5. マイカー使用申請書兼誓約書

従業員が業務や通勤で自家用車を使用する場合に、事故発生時の責任の所在やルールを明確にするために提出してもらいます。
任意保険の加入状況などを確認し、会社のリスクを管理します。

【効率化の鍵】ツール活用で入社手続きはもっと楽になる!

ここまで多くの書類や手続きを挙げてきましたが、「こんなにたくさん管理できない…」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
そこでおすすめなのが、労務管理ツールの活用です。

SmartHRやfreee人事労務、マネーフォワード クラウド給与といったクラウド型の労務管理ツールには、入社手続きを効率化する機能が備わっています。

これらのツールを使うと、以下のようなメリットがあります。

  • ペーパーレス化
    雇用契約書や各種届出書をオンライン上で作成・締結できます。印刷や郵送、ファイリングの手間が大幅に削減されます。
  • 従業員による直接入力
    ツールから新入社員を招待し、必要な情報を従業員自身に入力してもらうことができます。
    これにより、人事担当者の入力作業や、手書き書類の読み間違いといったミスがなくなります。
  • 手続きの自動化
    従業員が入力した情報をもとに、社会保険や雇用保険の資格取得届を自動で作成できます。
    電子申請に対応しているツールなら、役所に行かなくても手続きが完了します。
  • タスク管理と抜け漏れ防止
    「誰に」「何を」依頼しているかが一覧で分かり、手続きの進捗状況を可視化できます。
    これにより、対応の遅れや抜け漏れを防ぐことができます。

ツールの導入にはコストがかかりますが、事務作業にかかる時間を大幅に短縮し、より重要な業務に集中できることを考えれば、十分に検討する価値があると言えるでしょう。

まとめ

従業員を一人迎えるだけでも、これだけ多くの準備が必要です。
特に、法律で定められた手続きは、期限内に正確に行わなければなりません。

今回ご紹介したチェックリストを活用し、抜け漏れのないように準備を進めましょう。
そして、手続きの一部は労務管理ツールで効率化・自動化できることも覚えておいてください。
煩雑な事務作業から解放され、新しい仲間を温かく迎えることに集中できる環境を整えることが大切です。
もし手続きに不安がある、専門家のサポートが欲しいという場合は、ぜひお近くの社会保険労務士にご相談ください。


【免責事項】
本記事は、2025年8月時点の法令等に基づき作成されています。法改正等により、内容が変更となる可能性があります。また、個別の事案については、必ず専門家にご相談いただくか、管轄の行政機関にご確認ください。本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、当事務所は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。