【従業員50人の壁】超えたら必須!会社が対応すべき4つの義務を社労士が徹底解説

「最近、従業員が50人を超えた」
「もうすぐ50人になりそうだ」
事業が成長し、仲間が増えるのは喜ばしいことですよね。
しかし、企業の規模が大きくなるにつれて、法律で定められた義務も増えていくことをご存知でしょうか?
特に「常時使用する労働者が50人以上」になると、それまでとは異なる労務管理体制の構築が求められます。
これは「50人の壁」とも言われ、多くの経営者様や人事担当者様が対応に悩まれるポイントです。
「具体的に何をすればいいの?」
「知らなかったでは済まされない?」
そんな不安や疑問を解消するため、今回は従業員が50人を超えたら発生する、特に重要な4つの義務について、分かりやすく解説します。
「常時使用する労働者」の数え方は?
本題に入る前に、義務発生の基準となる「常時使用する労働者」の数え方を確認しておきましょう。
これは、正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約社員など、雇用形態に関わらず、常態として使用している労働者すべてを含みます。
例えば、「週1回勤務のアルバイト」でも、継続して雇用していれば1人としてカウントします。
複数の事業所がある場合は、事業所ごとにカウントします。
自社が対象になるかどうか、まずは正確な人数を把握することから始めましょう。
義務1:産業医の選任
従業員の健康を守る専門家として、事業場に「産業医」を選任する義務が発生します。
◆産業医とは?
産業医は、労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。
主な役割は以下の通りです。
- 健康診断結果に基づく就業上の措置(事後措置)
- 長時間労働者への面接指導
- ストレスチェック実施者としての役割
- 職場巡視(原則として月1回)
- 衛生委員会への出席と助言
単に健康診断の結果をチェックするだけでなく、職場の安全衛生全般に関わる、企業の健康管理のパートナーとも言える存在です。
◆いつまでに?
常時50人以上の労働者を使用するに至った日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
◆どうやって探す?
地域の医師会や、健康診断を依頼している医療機関、産業医紹介サービスなどを通じて探すのが一般的です。
義務2:衛生管理者の選任と衛生委員会の設置
職場の衛生環境を管理する「衛生管理者」を選任し、労使で職場の安全衛生について話し合う「衛生委員会」を設置しなければなりません。
◆衛生管理者とは?
衛生管理者は、労働者の健康障害や労働災害を防止するための専門家です。事業場の衛生全般を管理する役割を担い、国家資格が必要です。
- 資格の種類: 事業場の業種によって必要な資格が異なります(例:製造業や建設業などは第一種、情報通信業や卸売業・小売業などは第二種)。
- 選任人数: 事業場の規模に応じて、選任すべき人数が定められています。
- 選任期限: こちらも、事由が発生した日から14日以内の選任が必要です。
◆衛生委員会とは?
衛生委員会は、労働者の健康障害防止や健康の保持増進に関する対策など、職場の衛生に関する重要事項を調査審議するための場です。
- 開催頻度: 毎月1回以上の開催が義務付けられています。
- 構成メンバー:
- 総括安全衛生管理者(またはそれに準ずる者)
- 衛生管理者
- 産業医
- 事業場の労働者で、衛生に関し経験を有する者
- 議事録の作成と周知: 委員会の議事録を作成し、労働者に周知するとともに、3年間保存する義務があります。
衛生委員会を形骸化させず、実りある議論の場とすることで、より良い職場環境の実現につながります。
義務3:定期健康診断結果報告書の提出
労働者に対する定期健康診断の実施は、従業員数にかかわらずすべての事業者の義務です。
しかし、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、それに加えて「定期健康診断結果報告書」を所轄の労働基準監督署に提出する義務が発生します。
- 目的: 地域の労働者の健康状況を国が把握し、労働衛生行政の基礎資料とすることが目的です。
- 提出期限: 実施後、遅滞なく提出する必要があります。
毎年忘れずに行う健康診断ですが、報告書の提出までがセットの義務であると覚えておきましょう。
【知っ得ポイント】提出は便利な電子申請で!
この報告書の提出は、政府の電子申請窓口「e-Gov(イーガブ)」を利用した電子申請が可能です。
24時間いつでも自宅やオフィスのパソコンから申請でき、役所へ行く手間や郵送コストもかからないため、非常に便利です。
さらに、2025年1月からは、この報告書の電子申請が原則として義務化されました。
今後は電子申請が基本となりますので、ぜひ準備を進めておきましょう。
初めて利用する際は「GビズID」の取得などが必要になりますが、一度設定すれば他の行政手続きもスムーズになりますよ。
義務4:ストレスチェック制度の導入・実施
近年、重要性が増しているメンタルヘルス対策の一環として、ストレスチェック制度の導入と実施が義務付けられています。
◆ストレスチェック制度とは?
労働者が自身のストレス状態を把握し、セルフケアを促すとともに、職場全体のストレス要因を分析し、職場環境の改善につなげることを目的とした制度です。
- 実施頻度: 1年以内ごとに1回、定期的に実施します。
- 実施の流れ
- 導入前の準備(基本方針の表明、衛生委員会での審議)
- ストレスチェックの実施
- 本人への結果通知
- (希望者への)医師による面接指導
- 集団分析と職場環境の改善
- 報告義務: ストレスチェックと面接指導の実施状況について、所轄の労働基準監督署に報告書を提出する必要があります。
ストレスチェックは、実施して終わりではありません。
結果を集団的に分析し、職場環境の改善に活かしていくことが最も重要です。
【知っ得ポイント】こちらの報告書も、もちろん電子申請で!
このストレスチェック結果報告書(正式名称:心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書)の提出も、「義務3」の健康診断結果報告書と同様に、e-Gov電子申請が可能であり、原則として義務化されています。
2つの報告書は、セットで「電子申請が基本」と覚えておきましょう。
【Q&Aコーナー】よくあるご質問
Q1. 義務を怠った場合、罰則はありますか?
A1. はい、あります。今回ご紹介した義務の多くは、労働安全衛生法に基づくものです。違反した場合は、50万円以下の罰金などの罰則が科される可能性があります。何よりも、従業員の安全と健康を守るという企業の社会的責任を果たす上で、これらの義務を遵守することは不可欠です。
Q2. 何から手をつければいいか分かりません。
A2. まずは、自社の従業員数を正確に把握し、対象となる義務を確認することから始めましょう。その上で、産業医や衛生管理者の選任、委員会の設置など、具体的な準備を進めていくことになります。期限が定められているものも多いため、計画的に進めることが大切です。
【まとめ】50人の壁は、より良い会社への成長の証
従業員が50人を超えた際に発生する4つの義務。
一見すると、手間やコストがかかる面倒な手続きに思えるかもしれません。
しかし、これらの義務はすべて、大切な従業員が心身ともに健康で、安全に働き続けられる環境を整えるために定められたものです。
従業員が安心して働ける職場は、生産性の向上や離職率の低下にもつながり、ひいては会社の持続的な成長を支える土台となります。
「50人の壁」は、会社が新たなステージへ成長した証です。
社労士事務所ぽけっとでは、今回ご紹介したような労働安全衛生法に関するご相談をはじめ、各種届出の電子申請サポートや書類作成の代行など、企業様の状況に合わせたきめ細やかなサポートをご提供しております。
「自社の場合、具体的にどうすればいい?」
「専門家の視点でアドバイスが欲しい」
そんな時は、どうぞお気軽に私たちにご相談ください。
一緒に、より良い職場環境づくりを進めていきましょう。
【免責事項】
本記事の内容は、2025年6月時点の法令等に基づき作成しております。法改正などにより、内容が変更となる可能性があります。また、個別の事案については、必ず社会保険労務士等の専門家にご相談ください。