休業補償と休業手当の違いとは?分かりやすく解説!
従業員さんの雇用を守り、事業を継続していく中で、「従業員を休ませる」という場面に遭遇することもあるかと思います。
特に、「従業員が病気やケガで働けなくなった」「会社の都合で一時的に休業してもらう」といった状況では、「休業補償」や「休業手当」という言葉を耳にする機会があるのではないでしょうか?
この二つの言葉、似ているようで実は全くの別物。混同してしまうと、法的なトラブルに発展したり、従業員との信頼関係を損ねてしまったりする可能性も…。
そこで今回は、事業主の皆さんが押さえておくべき「休業補償」と「休業手当」の違いについて解説していきます!
この記事を読めば、
- それぞれの制度がどんな時に使われるのか
- 誰が、いくら支払う義務があるのか
- 税金の扱いはどうなるのか
といった疑問がスッキリ解消します。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
まずは結論!「休業補償」と「休業手当」の大きな違い
細かい説明に入る前に、まずは一番大事なポイントを押さえましょう!
- 休業補償(労働基準法):従業員が仕事中や通勤中のケガ・病気(業務災害・通勤災害)で働けない場合に、休業の最初の3日間について会社(事業主)が支払うもの。
- 休業手当(労働基準法):会社の都合で従業員を休ませる場合に、会社(事業主)が支払うもの。
どちらも労働基準法に定めがあり、会社(事業主)に支払い義務がある点が共通していますが、休業の原因が全く異なります。
それでは、それぞれの制度について、もう少し詳しく見ていきましょう。
① 休業補償(労働基準法 第76条):仕事が原因のケガ・病気に対する会社の補償義務
休業補償とは?
労働基準法で定められている「休業補償」は、従業員が業務災害(仕事が原因のケガや病気)または通勤災害(通勤途中の事故によるケガ)によって働くことができず、賃金を受けられない場合に、休業開始から最初の3日間(待期期間)について、その生活を保障するために会社(事業主)が支払わなければならない補償です。
ポイントは「仕事が原因であること」と「最初の3日間」という点です。
※なお、休業が4日以上に及ぶ場合は、別の公的な制度(労災保険)による給付が行われますが、この記事では主に労働基準法に基づく会社の義務について解説します。
誰が支払うの?
労働基準法第76条に基づき、会社(事業主)が支払います。
いくら支払われるの?
休業1日につき、原則として平均賃金の60%を会社が支払います。この補償は、休業した最初の3日間(待期期間)に対して行われます。
(※)平均賃金とは、原則として算定すべき事由が発生した日(休業日)以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額のことです。
休業補償のポイントまとめ
- 原因:仕事中・通勤中のケガや病気(労災)
- 根拠法:労働基準法(最初の3日間)、労災保険法(4日目以降)
- 支払元:会社(最初の3日間)、労災保険(4日目以降)
- 支給額:平均賃金の60%(最初の3日間)、給付基礎日額の80%(4日目以降)
- 税金:会社負担分(最初の3日間)も労災保険給付分(4日目以降)も非課税
- 社会保険料:原則として免除されない(通常通り支払いが必要)
② 休業手当:会社都合で休ませる場合の生活保障
休業手当とは?
休業手当は、労働基準法第26条で定められている制度です。
「使用者の責に帰すべき事由」、つまり会社側の都合によって従業員を休業させる場合に、会社(事業主)が従業員の生活を保障するために支払わなければならない手当です。
「会社の都合」とは、具体的に以下のようなケースが考えられます。
- 原材料の不足や機械の故障で、工場を一時的に停止する場合
- 経営不振による一時的な仕事量の減少で、従業員に自宅待機を命じる場合
- 会社の都合による店舗の改装などで、一時的に休業する場合
- 記憶に新しいところでは、新型コロナウイルス感染症の影響により、行政からの要請や自主的な判断で事業活動を縮小・休止し、従業員に休業してもらったケースも、多くの場合この「会社の都合」による休業に該当し、休業手当の支払いが必要となりました。(この負担を軽減するため、雇用調整助成金などの特例措置が設けられていました。)
ただし、天災事変などの不可抗力(例:大地震で事業所が倒壊した)による休業の場合は、原則として会社の責任とは言えず、休業手当の支払い義務は発生しません。しかし、その判断は慎重に行う必要があります。
誰が支払うの?
休業手当は、会社(事業主)が直接従業員に支払う義務があります。 労災保険のような公的な保険から支払われるものではありません。
いくら支払われるの?
労働基準法では、休業期間中、従業員の平均賃金の60%以上を支払わなければならないと定められています。
「以上」とされているので、会社の就業規則などで「70%支払う」「満額支払う」と定めていれば、そちらが優先されます。最低でも60%は保障する必要がある、と覚えておきましょう。
(※)平均賃金は、上記「休業補償」の項目をご参照ください。
休業手当のポイントまとめ
- 原因:会社(事業主)の都合による休業
- 根拠法:労働基準法 第26条
- 支払元:会社(事業主)
- 支給額:平均賃金の60%以上
- 税金:課税対象(給与所得として所得税がかかります)
- 社会保険料:原則として免除されない(通常通り支払いが必要)
【比較表】休業補償と休業手当の違いが一目瞭然!
ここまで解説してきた内容を、比較表にまとめてみました。
項目 | 休業補償 (労災時) | 休業手当 (会社都合時) |
---|---|---|
休業の原因 | 仕事中・通勤中のケガや病気 (労災) | 会社都合 (使用者の責に帰すべき事由) |
根拠法 | 労働基準法(1-3日目), 労災保険法(4日目-) | 労働基準法 第26条 |
支払元 | 会社(1-3日目), 労災保険(4日目-) | 会社 (事業主) |
支払額(主なもの) | 平均賃金の60%(1-3日目), 給付基礎日額の80%(4日目以降) | 平均賃金の60%以上 |
支給開始 | 会社補償は初日から, 保険給付は4日目から | 休業初日から |
税金 | 非課税 (全期間) | 課税対象 (給与所得) |
社会保険料 | 原則として免除されない | 原則として免除されない |
年次有給休暇の出勤率算定における注意点
「休業補償」と「休業手当」は、年次有給休暇を付与する際の出勤率(=出勤日数 ÷ 全労働日数)の計算においても扱いが異なります。
- 休業補償を受けている期間(業務上のケガ・病気による休業)
- 労働基準法に基づき、この期間は「出勤したもの」として扱います。
- つまり、出勤率の計算上、分母(全労働日数)にも分子(出勤日数)にも含めて計算します。この休業によって従業員の出勤率が不利になることはありません。
- 休業手当を受けている期間(会社都合による休業)
- この期間は、「全労働日から除外」して計算するのが一般的です。
- つまり、出勤率の計算上、分母(全労働日数)からも分子(出勤日数)からも除外します。この休業自体が出勤率に影響を与えることはありません。
<勤怠管理ツールの設定に注意!>
多くの企業で勤怠管理ツールが導入されていますが、これらの休業期間について、ツール上で適切な区分設定(「労災休業(出勤扱い)」、「会社都合休業(計算除外)」など)が行われていないと、年次有給休暇の出勤率が誤って計算されてしまう可能性があります。 例えば、労災による休業を単なる「欠勤」として処理してしまうと、本来出勤扱いすべき日数が欠勤としてカウントされ、出勤率が不当に低くなる恐れがあります。
ツールの設定を確認し、必要であれば設定変更や運用ルールの見直しを行いましょう。
なぜこの違いを知っておくことが重要なのか?
事業主の皆さんにとって、「休業補償」と「休業手当」の違い、そして「休業補償」の中での会社負担と労災保険負担の違いを正しく理解しておくことは、非常に重要です。
- 法令遵守 (コンプライアンス): 労働基準法で定められた休業補償(最初の3日間)や休業手当の支払いを怠ると、罰則が科される可能性があります。また、労災が発生したにも関わらず、適切な手続きを行わない「労災隠し」は、さらに重い罰則の対象となります。
- 適切なコスト管理と給与計算: どの制度が適用されるか、税金の扱いなどを正しく理解することで、適切なコスト管理と正確な給与計算が可能になります。
- 従業員との良好な関係構築: 従業員が安心して働ける環境を作ることは、事業の発展に不可欠です。万が一の際に、会社が法律に基づいて適切に対応してくれるという信頼感は、従業員のエンゲージメントを高め、不要なトラブルを防ぐことにも繋がります。
【まとめ】いざという時のために、正しい知識を!
今回は、「休業補償」と「休業手当」の違いについて、税金、社会保険料、年次有給休暇の出勤率算定の観点も踏まえて解説しました。
- 休業補償(労災時)
- 1~3日目:会社が平均賃金の60%を補償(非課税)
- 4日目以降:労災保険が給付基礎日額の80%を給付(非課税)
- 社会保険料:原則免除されない
- 年休出勤率:出勤扱い
- 休業手当(会社都合時)
- 全期間:会社が平均賃金の60%以上を支給(課税)
- 社会保険料:原則免除されない
- 年休出勤率:計算から除外
この点をしっかり押さえておけば、いざという時にも慌てず、適切に対応できるはずです。
とはいえ、実際のケースでは「これは会社の都合と言えるのか?」「このケガは労災にあたるのか?」、また平均賃金や給付基礎日額の計算、社会保険料の徴収方法、勤怠管理ツールの設定など、判断に迷う場面もあるかもしれません。
そんな時は、決して自己判断せず、社会保険労務士(社労士)などの専門家や、労働基準監督署、年金事務所、健康保険組合などに相談することをおすすめします。
休業補償や休業手当を含む給与計算、社会保険手続き、勤怠管理は複雑になりがちです。勤怠ツールの設定を含め、正確な給与計算や労務管理についてお困りの際は、ぜひ弊社社労士事務所へお気軽にお問い合わせください。専門家として、貴社をサポートいたします。
従業員を守り、健全な会社経営を続けるためにも、これらの制度について正しい知識を身につけておきましょう!
この記事が、事業主の皆さんの日々の経営の一助となれば幸いです。