【海外赴任者の給与計算】課税?非課税?支給日と計算期間で変わる税金の正解

海外赴任者の給与、課税?非課税?答えは記事の中に!

こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。

従業員の海外赴任が決まった人事ご担当者様、こんな疑問でお困りではありませんか?

「月の途中で出国する社員の給与、どう扱えばいいの?」
「去年は非課税と聞いたけど、今回は課税と言われた…なぜ?」

実は、海外赴任者の給与・賞与の税務処理は、
①いつの分の給与か(計算期間)②いつ支払うか(支給日)
の組み合わせによって、結論が全く変わります。
このルールを知らないと、思わぬ源泉徴収漏れに繋がる可能性もあり、注意が必要です。

この記事では、複雑に見える非居住者の給与課税について、具体的なケースを用いながら「課税になる場合」「非課税になる場合」の判断基準を、どこよりも分かりやすく解説します。

まずは基本「居住者」と「非居住者」について

所得税法では、個人の納税義務を「居住者」と「非居住者」に分けて定めています。

  • 居住者: 国内に「住所」がある、または1年以上「居所」がある個人。
  • 非居住者: 上記「居住者」以外の個人。

1年以上の予定で海外赴任する場合、一般的に日本を出国した日の翌日から「非居住者」となります。非居住者になると、原則として「国内源泉所得(日本国内での勤務に対する対価)」のみが日本の所得税の課税対象となります。

【ケース別】給与・賞与の課税関係を徹底比較!

それでは、最も間違いやすい3つのケースを比較しながら、課税関係を見ていきましょう。
ここでは【出国日:6月20日】を共通の前提とします。


【ケース1】出国"月"の給与(6月分)→ 条件を満たせば「非課税」

出国した月の給与の取り扱いです。

  • 対象: 6月分給与(計算期間:6月1日~6月30日)
  • 支給日: 7月25日

《結論》 → 非課税(源泉徴収は不要)

《理由》

これは、所得税の通達で定められた簡便的な特例が適用されるためです。
以下の2つの条件を両方満たす給与は、「国内源泉所得ではない」とみなされ、非課税として扱えます。

【非課税として取り扱われる特例条件】

  1. 支給日が、非居住者になった後であること (今回の支給日7/25は、非居住者になった6/21より後 → OK)
  2. 計算期間に、国外での勤務期間が含まれていること (6月分給与には、出国後の6/21~30の期間が含まれる → OK)

このケースでは上記2つを満たすため、特例が適用され、源泉徴収は不要となります。

国税庁>給与の計算期間の中途で非居住者となった者に支給する超過勤務手当(基本給との計算期間が異なる場合)


【ケース2】出国"前月"の給与(5月分)→ 全額が「課税」

次に出国後に支払われる給与についてです。

  • 対象: 5月分給与(計算期間:5月1日~5月31日)
  • 支給日: 6月25日

《結論》 → 課税(給与の課税対象額※に20.42%で源泉徴収)
※所得税法上で非課税とされる通勤手当などを除いた金額。

《理由》

このケースも支給日(6/25)は非居住者になった後です。
しかし、ケース1の特例には「給与の全額が国内勤務によるものである場合は、特例を適用しない」という除外ルールがあります。

5月分の給与は、計算期間(5/1~31)の全てが国内での勤務です。
そのため、この除外ルールに該当し、特例は使えません。

結果、原則に戻り「国内源泉所得」として課税されます。支払日時点では非居住者ですので、給与の課税対象額に対して20.42%の税率で源泉徴収を行います。


【ケース3】賞与 → 常に「期間按分で課税」

最後に賞与です。
賞与は給与とは全く異なる、独自のルールで計算します。

  • 対象: 賞与(算定期間:12月1日~5月31日)
  • 支給日: 7月10日

《結論》 → 国内勤務期間で按分して課税(20.42%で源泉徴収)

《理由》

賞与には、ケース1のような非課税の特例は一切ありません。
支給日がいつかに関わらず、必ず「算定期間のうち、国内で勤務した期間」に対応する金額を計算し、その金額に対して20.42%の税率で源泉徴収を行います。

  • 算定期間:6ヶ月(12/1~5/31)
  • うち国内勤務期間:4ヶ月(12/1~3/20まで。月単位で計算)
  • 課税対象額 = 賞与額 × 4ヶ月 ÷ 6ヶ月

一目でわかる!課税判断まとめ表

これまでの3ケースを一覧表にまとめました。ぜひご活用ください。

対象計算期間支給日課税判断理由
出国月の給与6/1~6/307/25非課税計算期間に国外勤務を含むため、特例を適用できる
出国前月の給与5/1~5/316/25課税対象額※に課税 (20.42%)給与の全額が国内勤務分のため、特例の対象外となる。
賞与12/1~5/317/10期間按分で課税賞与はそもそも特例の対象外。常に按分計算が必要。

※所得税法上で非課税とされる通勤手当などを除いた金額。


(記事の他の部分は変更ありません)

補足:よくある質問(年末調整・住民税など)

Q1. 年末調整はどうなりますか?

A1. 年の途中で非居住者となった方は、原則として年末調整の対象にはなりません。

Q2. 住民税の扱いはどうなりますか?

A2. 住民税は、その年の1月1日時点で住所があった市区町村で課税されます。例えば、2025年6月20日に出国した場合、2025年度分の住民税は全額納付する必要があります。

まとめ

非居住者の給与・賞与の課税判断は、ここまで見てきたように非常に複雑です。
しかし、ポイントを絞れば判断しやすくなります。

  • 給与の場合 → まず支給日を確認。出国後の支払いなら、次に計算期間が完全に国内勤務だけかを確認する。
  • 賞与の場合常に按分計算と覚える。

これらの手続きは専門知識を要するため、少しでも判断に迷ったら、自己判断せずに専門家に相談することが最も安全です。

社労士事務所ぽけっとでは、こうした複雑な給与計算に関するご相談も承っております。
貴社の状況に合わせた的確なアドバイスで、人事ご担当者様をしっかりとサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。


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