【今さら聞けない】月60時間超の割増賃金、本当に合ってる?社労士が再点検ポイントを解説!

2023年4月に中小企業にも適用が拡大された「月60時間超の割増賃金」。
法改正から2年以上が経ち、給与計算の現場ではすっかりお馴染みのルールとなりました。
「もちろん、うちの会社はもう対応済みだよ」という方がほとんどだと思います。
ただその一方で、
「今さら同僚には聞きづらいけど、うちの計算方法で本当に合っているかな…」
「対応はしたつもりだけど、細かい部分に少し自信がない…」
と、ふとした瞬間に不安を感じることはありませんか?
大丈夫です。
今回はそんな皆様のために、重要なルールだからこそ、改めて基本からおさらいし、見落としがちな注意点までを丁寧に解説していきます。
こんにちは!あなたの会社の「困った」に寄り添う、社労士事務所ぽけっとです。
正しい知識の再確認で、自信を持って労務管理を行いましょう!
そもそも何が変わったの?法改正のポイント
まずはおさらいです。
この法改正のポイントをシンプルに確認しましょう。
- いつから?
- 2023年4月1日
- 誰が対象?
- すべての中小企業
- 何が変わった?
- 1ヶ月の時間外労働(残業)が60時間を超えた部分について、割増賃金率が従来の25%以上から50%以上に引き上げられました。
このルールは、現在では大企業・中小企業を問わず、すべての企業に適用されています。
うちの会社は「中小企業」?対象となる企業の定義
念のため、中小企業の定義を再確認しましょう。
以下の表で、資本金と常時使用する労働者数のいずれかが基準を満たせば「中小企業」に該当します。(業種によって判断基準が異なります)
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者の数 |
---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
【重要】割増賃金の具体的な計算方法
ここが一番の再点検ポイントです。落ち着いて一つずつ見ていきましょう。
【ステップ1】月60時間を超える時間外労働時間を把握する
まず、割増率50%の対象となる「時間」を正しく把握する必要があります。
【重要ポイント】法定休日に行った労働時間は、月60時間のカウントに含まれません。
「どうして含まれないの?」と疑問に思いますよね。
その理由は、「時間外労働」と「休日労働」が、そもそも法律や労使協定で別物として扱われているからです。
会社が従業員に法定労働時間を超えた労働(時間外労働)や、法定休日の労働をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定、通称「36(サブロク)協定」の締結と届出が必要です。
そして、この36協定の書式を見ると、
- 時間外労働をさせることができる上限時間
- 休日労働をさせることができる上限日数
これらがそれぞれ別の項目として定められているのが分かります。
このように、労働時間管理のスタート地点である36協定の段階で「時間外労働」と「休日労働」は明確に区別されています。
そのため、今回の法改正で対象となる「月60時間」のカウントには、休日労働の時間は含めず、純粋な時間外労働時間だけを合計して判断する、というわけです。
【ステップ2】割増賃金を計算する
月60時間を超えた部分の割増賃金は、以下の計算式で求められます。
計算式:1時間あたりの賃金 × 0.50 × 月60時間を超えた時間数
《計算例》 1時間あたりの賃金が1,500円の従業員が、1ヶ月に70時間の時間外労働をした場合
- 60時間までの残業代
1,500円 × 1.25 × 60時間 = 112,500円
- 60時間を超えた10時間分の残業代
1,500円 × 1.50 × 10時間 = 22,500円
- 合計の残業代
112,500円 + 22,500円 = 135,000円
【注意!】深夜労働と重なった場合
もし、月60時間を超える時間外労働が深夜(22時~翌5時)に行われた場合はどうなるのでしょうか?
この場合、深夜労働の割増率も加算されます。
- 時間外労働割増率(60時間超):50%
- 深夜労働割増率:25%
- 合計の割増率:50% + 25% = 75%
給与計算がさらに複雑になりますので、この点も見落としがないか確認しましょう。
コスト増だけじゃない!代替休暇という選択肢
「割増率50%は、人件費の負担が大きい…」と感じる経営者様も多いでしょう。
そこで活用を検討したいのが「代替休暇(だいたいきゅうか)」制度です。
これは、月60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇(代替休暇)を付与できるという制度です。
《代替休暇のメリット》
- 企業側: 人件費の増加を抑制できる。
- 従業員側: お金よりも休みを取りたい場合に、心身のリフレッシュに繋がる。
《導入するための条件》 代替休暇制度を導入するには、「労使協定」を締結する必要があります。
就業規則に規定するだけでは足りませんのでご注意ください。
労使協定では、代替休暇の時間数の計算方法や取得単位、取得期限などを定めます。
制度の導入や労使協定の作成は専門的な知識が必要です。
ご検討の際は、ぜひ私たち社労士にご相談ください。
【Q&A】よくあるご質問
Q1. 法定休日に8時間働きました。この8時間は、月60時間のカウントに含まれますか?
A1. いいえ、含まれません。本編で解説した通り、36協定でも別扱いの法定休日労働の時間は、月60時間の時間外労働の算定からは除外されます。ただし、法定休日労働には別途35%以上の割増賃金の支払いが必要です。
Q2. 月の途中で入社した従業員も対象になりますか?
A2. はい、対象になります。月の途中で入社・退職した従業員であっても、その月の時間外労働が60時間を超えれば、超えた部分については50%の割増率が適用されます。
Q3. 代替休暇の取得は義務ですか?
A3. いいえ、労働者が代替休暇を取得するか、割増賃金を受け取るかを選択できます。会社が一方的に代替休暇の取得を命じることはできません。
【まとめ】正しい労務管理で、従業員も会社も安心できる環境を
今回は、重要なルールである「月60時間超の割増賃金」について、改めて基本から確認しました。
- 月60時間を超える残業は割増率50%以上
- 36協定の定めに基づき、法定休日労働は60時間のカウントに含まない
- 深夜労働と重なると割増率は75%以上
- 代替休暇制度の活用も検討できる(労使協定が必要)
「知っている」と「正しくできている」は違うかもしれません。
この機会にぜひ一度、貴社の勤怠管理や給与計算の方法を再点検してみてください。
「自社のやり方で本当に万全か、専門家の視点でチェックしてほしい」
「代替休暇の運用を見直したい」
そんな時は、専門家である社会保険労務士にお気軽にご相談ください。
社労士事務所ぽけっとは、貴社の状況を丁寧にヒアリングし、最適なサポートをご提供いたします。
【免責事項】
本記事は、作成日時点の法令および情報に基づき作成しております。法改正等により内容が変更となる可能性がありますのでご了承ください。また、個別の事案については、必ず専門家にご相談いただきますようお願い申し上げます。