給与計算ミス!基本給の間違いに気づいた時の正しい対処法とは?

中小企業の経営者様、人事・労務担当者様、こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。
毎月の給与計算、本当にお疲れ様です。
従業員の生活を支える大切なお給料だからこそ、数字のチェックには細心の注意を払っていることと思います。
しかし、どれだけ気をつけていても「あっ、間違えた!」というミスは起こり得ます。
特に、給与の根幹となる「基本給」の金額を間違えてしまうと、その影響は残業代や社会保険料など、様々な項目に及ぶため、対応に戸惑ってしまう方も少なくありません。
「先月支給分から基本給の額が違っていた…どうしよう…」
「残業代も全部計算し直し?どこまで遡ればいいの?」
「従業員にはなんて説明すれば…」
この記事では、そんな給与計算の「困った!」を解決するために、基本給の間違いに気づいた時の具体的な対処法を、ステップごとに分かりやすく解説します。慌てず、一つひとつ丁寧に対応していきましょう。
なぜ基本給の間違いは影響が大きいのか?
まず、なぜ基本給の間違いが他の手当の間違いより影響範囲が広くなるのかを確認しておきましょう。
基本給は、単に給与の一部というだけではありません。以下の項目の計算基礎となっていることがほとんどです。
- 割増賃金(残業代・休日出勤手当・深夜手当)
- 欠勤・遅刻・早退の控除額
- 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)
- 労働保険料(雇用保険料)
- 所得税
- 賞与(ボーナス)や退職金の算定
このように、様々な計算の「根っこ」になる部分だからこそ、間違いに気づいた際は、関連する全ての項目を見直す必要があるのです。
【実践】基本給の間違いに気づいた時の5つのステップ
では、実際に間違いに気づいた際に、どのような手順で対応すれば良いのでしょうか。以下の5つのステップに沿って進めていきましょう。
ステップ1:事実確認と影響範囲の特定
まずは慌てずに、現状を正確に把握することから始めます。
- いつから間違っていたのか?(例:先月分から、半年前から)
- 対象となる従業員は誰か?(特定の1名か、複数名か)
- どの項目に影響が出ているか?(基本給の差額、割増賃金、欠勤控除額、社会保険料など)
ここを曖昧にすると、再計算や修正手続きで二度手間が発生してしまいます。
給与台帳や雇用契約書などを確認し、間違いのあった期間と対象者を正確に特定しましょう。
ステップ2:正しい給与の再計算
影響範囲が特定できたら、正しい基本給に基づいて給与を再計算します。特に重要なのが「割増賃金」と「欠勤・遅早控除」の再計算です。
●割増賃金の再計算
割増賃金は、以下の計算式で算出される「1時間あたりの賃金単価」を基に計算されます。
1時間あたりの賃金単価 = (その月の給与※) ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間 ※家族手当、通勤手当、住宅手当などは除外します。
※就業規則に定められた通りに計算します。
基本給の額が変わると、この賃金単価が変動します。
そのため、間違いがあった期間の残業時間などを再度確認し、「正しい賃金単価」で割増賃金を計算し直す必要があります。
●欠勤・遅早控除の再計算
同様に、欠勤や遅刻・早退があった場合の控除額も、基本給を基に日割りや時間割りで計算されているはずです。
正しい基本給で控除額も再計算し、本来より多く控除しすぎていた場合はその差額を返還し、不足していた場合は差額を精算する必要があります。
ステップ3:差額の精算方法を決定する
再計算で確定した差額を、どのように従業員に支払う(または返してもらう)かを決めます。
●不足分を支払う場合
不足分は、従業員にとって「未払い賃金」となります。気づいた時点で速やかに支払うのが原則です。
一般的には、翌月の給与支給日に、他の手当などと合算して支払うケースが多いでしょう。
その際は、給与明細に「過少払い分調整」「遡及支払い分」などの項目を設け、従業員が内容を把握できるようにすることが大切です。
●過払い分を返してもらう場合
ここが一番注意したいポイントです。会社が一方的に翌月の給与から天引き(相殺)することは、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に違反する可能性があります。
必ず、従業員に事情を丁寧に説明し、過払い分の返金について同意を得てから精算を進めてください。
同意が得られれば、翌月給与で調整するか、現金で返してもらうなどの方法を取ります。
労使トラブルを避けるためにも、同意書を取り交わしておくとより安心です。
ステップ4:従業員への誠実な説明とお詫び
手続き以上に大切なのが、従業員への対応です。給与は従業員の信頼の基盤です。
- なぜ間違いが起こったのか
- どのように再計算したのか
- いつ、どのように差額を精算するのか
これらの内容を、誠意をもって、直接言葉で説明しましょう。
お詫びの気持ちを伝えるとともに、今後の再発防止策を伝えることで、従業員の不安を和らげ、信頼関係を維持することができます。
ステップ5:社会保険・労働保険・税金の修正手続き
最後に、公的な手続きの修正です。基本給の変動は、社会保険料などにも影響します。
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険)
給与を遡って訂正した場合、過去の社会保険料をさかのぼって訂正する必要はありません。
実務上は、差額が支払われた月(差額調整が行われた月)を「固定的賃金の変動が報酬に反映された月(起算月)」として扱います。
この起算月から3ヶ月間に支払われた給与(差額調整分を含む)の平均額を算出し、現在の標準報酬月額と比べて2等級以上の差が生じた場合に「随時改定(月額変更届)」の手続きを行います。
これにより、将来の社会保険料が新しい報酬額に合わせて改定されます。
なお、差額調整によって報酬が本来より低くなった月は、調整前の報酬額で計算します。 - 労働保険(雇用保険)
不足分を支払った場合、その支払った月の給与額に合算して雇用保険料を計算・控除するのが一般的です。
そして、年に一度の「年度更新」の際に、正しい賃金総額で申告・納付を行います。 - 税金(所得税・住民税)
年内の修正であれば、年末調整で最終的に正しい年税額が計算されるため、基本的には年末調整で対応が完結します。
年をまたいで修正が必要な場合は、手続きが複雑になるため税務署や税理士への確認をおすすめします。
Q&Aコーナー
Q.すでに退職してしまった従業員の給与間違いに気づいた場合は?
A.退職後であっても、会社には賃金を支払う義務があります。本人に連絡を取り、事情を説明してお詫びをし、不足分を支払う必要があります。
Q.給与の未払いには時効がありますか?
A.はい、あります。賃金請求権の時効は、法改正により当面の間「3年」となっています。時効が成立する前に、誠実に対応することが重要です。
【まとめ】給与計算のミスは、迅速・正確・誠実な対応が鍵
給与計算の間違いは、誰にでも起こり得るヒューマンエラーの一つです。
しかし、その後の対応を間違えると、従業員との信頼関係を損ねたり、労使トラブルに発展したりする可能性もあります。
もし間違いに気づいたら、
1.慌てず事実確認
2.正確に再計算
3.誠実に説明・謝罪
4.切な手順で精算・修正
この流れを徹底することが何よりも大切です。
とはいえ、割増賃金の複雑な再計算や、社会保険の随時改定の判断などは専門的な知識が求められます。
「自分たちだけで対応するのは不安…」
「他にも間違いがないか心配になってきた…」
そんな時は、ぜひ私たち給与計算と労務管理の専門家である社労士事務所ぽけっとにご相談ください。
専門家の視点から、正確な再計算はもちろん、従業員への説明方法や各種手続きまで、トータルでサポートさせていただきます。
ご相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。
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本記事は、投稿日時点の法令や情報に基づき作成しております。法改正や個別の状況により取り扱いが異なる場合がございますので、具体的な事案については必ず専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによるいかなる損害についても、当事務所は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。