給与計算担当者&事業主必見!知らないと怖い労働基準法の基礎知識【賃金・労働時間編】

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「給与計算、ちゃんとやってるつもりだけど、法律的に本当に大丈夫かな…?」 「ウチは小さい会社だから、細かいルールまでは…」

事業主の皆さん、そして給与計算を担当されている皆さん、お疲れ様です。 会社の成長を支える大切な「ヒト」に関わる給与計算。実はこれ、単なる数字の計算だけじゃないんです。従業員の方々の生活に直結するだけでなく、「労働基準法」という法律と密接に関わっています。

「法律って難しそう…」と感じるかもしれませんが、大丈夫! この記事では、特に給与計算に深く関わる労働基準法の「キホンのキ」を、事業主の皆さんにも分かりやすく、親しみやすい言葉で解説していきます。

知らなかったでは済まされない、でも知っておけば安心!そんな労働基準法の基礎知識を一緒に確認していきましょう。正しい知識は、従業員との良好な関係を築き、無用なトラブルを避け、会社の信頼を守るための「お守り」になります。

そもそも「労働基準法」ってどんな法律?

簡単に言うと、労働基準法は、働く人のための最低限のルールを定めた法律です。会社(使用者)と従業員(労働者)の間で、弱い立場になりがちな労働者を守るために、労働時間、休日、賃金などの労働条件について、国が「これだけは守ってくださいね」という基準を設けているのです。

原則として、パートやアルバイトを含むすべての労働者に適用されます。たとえ従業員との間で「うちは特別ルールで」と合意したとしても、労働基準法が定める基準を下回る労働条件は無効になってしまう、という非常に強い効力を持っています。

給与計算は、この労働基準法で定められたルールに基づいて正しく行われなければなりません。

給与計算のキホン!「賃金支払いの5原則」は絶対遵守!

給与計算の根幹とも言えるのが、賃金の支払い方に関するルールです。労働基準法では、以下の「賃金支払いの5原則」を定めており、これらは必ず守らなければならない基本中の基本です。

  1. 通貨払いの原則
    • 内容: 賃金は、現金(日本円)で支払わなければなりません。現物支給(自社製品など)は原則NGです。
    • 例外: 労働者の同意を得れば、銀行振込などはOKです。(今はこちらが主流ですよね!)
    • 給与計算ポイント: 基本は現金払い。振込が一般的なのは、あくまで「例外」として認められているからです。
  2. 直接払いの原則
    • 内容: 賃金は、直接、労働者本人に支払わなければなりません。代理人への支払いは原則NGです。
    • 給与計算ポイント: 未成年者の給料を親に支払う、といったことも原則できません。必ず本人に支払いましょう。
  3. 全額払いの原則
    • 内容: 賃金は、その全額を支払わなければなりません。会社が一方的に何かを天引きすることは原則NGです。
    • 例外: 所得税、住民税、社会保険料など、法令で定められたものや、労使協定(労働者の過半数代表との書面による協定)を結んだ場合(社宅費、組合費など)は、賃金から控除(天引き)できます。
    • 給与計算ポイント: これが一番重要かも!給与計算で行う「控除」は、この例外規定に基づいています。何を控除して良いのか、根拠をしっかり確認しましょう。遅刻・早退控除なども、就業規則等に明確な根拠が必要です。
  4. 毎月1回以上払いの原則
    • 内容: 賃金は、毎月最低でも1回は支払わなければなりません。年俸制の場合でも、毎月分割して支払う必要があります。
    • 給与計算ポイント: 「今月は業績が悪いから来月まとめて…」はNGです。
  5. 一定期日払いの原則
    • 内容: 賃金は、「毎月25日」のように、支払日を具体的に決めて、その日に支払わなければなりません。「毎月月末」のような指定もOKです。
    • 給与計算ポイント: 支払日が休日にあたる場合の取扱い(前倒しor後ろ倒し)なども、就業規則で明確にしておくとスムーズです。

これらの原則は、給与計算ソフトを使っていたとしても、その設定や運用が原則に沿っているかを確認することが大切です。

大丈夫?「労働時間・休憩・休日」のルール

賃金と並んで重要なのが、労働時間に関するルールです。給与計算は、労働時間に基づいて行われるため、ここの理解は必須です。

  • 法定労働時間
    • 原則として、1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはいけません。これが法律で定められた上限です。
    • これを超えて働いてもらうには、後述する「36協定」の締結・届出が必要です。
    • 変形労働時間制など、特定の制度を導入することで、月単位や年単位で労働時間を調整することも可能ですが、導入には厳格な要件があります。
  • 休憩時間
    • 労働時間が6時間を超える場合は最低45分8時間を超える場合は最低1時間の休憩を、労働時間の途中で与えなければなりません。
    • 休憩時間は、労働者が自由に利用できるものでなければならず、電話番などをさせながらの休憩は、休憩時間とはみなされません。
    • 原則として、事業場の労働者全員に一斉に与える必要があります(業種によっては例外あり)。
    • 給与計算ポイント: 休憩時間は労働時間に含まれません。勤怠管理で休憩時間を正確に把握し、労働時間から差し引く必要があります。
  • 法定休日
    • 毎週少なくとも1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
    • 曜日の指定はありませんが、多くの企業では日曜日などを法定休日としています。
    • 法定休日に労働させる場合も、「36協定」の締結・届出と、割増賃金の支払いが必要です。
    • 給与計算ポイント: 会社のカレンダー上の「休みの日」と、法律上の「法定休日」は区別して考える必要があります。法定休日の労働には、より高い割増率が適用されます。

トラブルの元!「時間外労働(残業)と割増賃金」の正しい理解

残業代の未払いは、労働トラブルの中でも特に多いケースです。正しい計算方法を理解しておきましょう。

  • 時間外労働(残業)をさせるには?
    • 法定労働時間を超えて、または法定休日に労働させる場合は、事前に「36(サブロク)協定」という労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。これがない状態での残業命令は違法です。
  • 割増賃金の支払い
    • 36協定を結んで残業させた場合でも、通常の賃金に加えて、以下の割増率で計算した割増賃金を支払う義務があります。
      • 時間外労働(法定労働時間を超えた分):25%以上
        • ※月60時間を超える時間外労働に対しては、大企業は50%以上、中小企業も2023年4月から50%以上の割増率が適用されています!要注意!
      • 休日労働(法定休日の労働):35%以上
      • 深夜労働(午後10時~午前5時の労働):25%以上
    • これらの割増は重複して適用されます。例えば、法定時間外労働が深夜に及んだ場合は、「時間外割増(25%以上) + 深夜割増(25%以上) = 50%以上」となります。
    • 給与計算ポイント: 1分単位での労働時間管理と、正確な割増賃金の計算が求められます。固定残業代(みなし残業代)制度を導入している場合も、実際の残業時間が固定分を超えた場合は、その差額を追加で支払う必要があります。

忘れがち?「年次有給休暇」の付与と管理

従業員のリフレッシュや私生活との両立のために重要な年次有給休暇(有給)にも、ルールがあります。

  • 付与要件と日数
    • 雇入れの日から6ヶ月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、最低10日の有給を付与しなければなりません。
    • その後は、継続勤務年数に応じて付与日数が増えていきます(勤続6.5年以上で最大20日)。
    • パート・アルバイトの方にも、所定労働日数に応じて比例付与されます。
  • 取得時季と時季指定義務
    • 有給をいつ取得するかは、原則として労働者が自由に決められます(事業の正常な運営を妨げる場合は、会社が時季変更権を行使可能)。
    • 重要!: 年10日以上の有給が付与される労働者に対しては、付与日から1年以内に、会社が時季を指定して年5日の有給を取得させなければなりません。これは会社の義務です。
  • 有給取得日の賃金
    • 有給を取得した日の賃金は、就業規則等で定めるところにより、①平均賃金、②所定労働時間労働した場合の通常の賃金、③健康保険法の標準報酬日額のいずれかで支払います。②が一般的です。
    • 給与計算ポイント: 誰にいつ何日付与したか、いつ何日取得したか、残日数は何日かを正確に管理する「年次有給休暇管理簿」の作成・保存が義務付けられています。また、年5日の取得義務を果たしているかを確認し、取得を促す必要もあります。

その他、給与計算に関連する重要ポイント

  • 就業規則: 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります。賃金の決定・計算・支払方法、労働時間、休日、休暇などは必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)です。給与計算のルールは、就業規則に準拠している必要があります。
  • 労働条件の明示: 労働者を採用する際には、賃金、労働時間、休日など、主要な労働条件を書面(労働条件通知書など)で明示しなければなりません。
  • 記録の保存: 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などの労働関係の重要書類(法定三帳簿)は、原則5年間(当分の間は3年間)保存する義務があります。給与計算の根拠となる勤怠記録や賃金台帳は、税務調査や労基署の調査だけでなく、万が一のトラブルの際にも重要な証拠となります。

まとめ:正しい知識で、安心できる会社づくりを

今回は、給与計算担当者や事業主の皆さんにぜひ知っておいてほしい労働基準法の基礎知識、特に賃金や労働時間に関する部分を中心にお伝えしました。

「なんだか細かいルールがたくさん…」と感じたかもしれません。しかし、これらのルールは、従業員が安心して働き、会社が健全に発展していくための土台となるものです。

労働基準法を正しく理解し、遵守することは、単に法律違反のリスクを避けるだけでなく、

  • 従業員との信頼関係の構築
  • 従業員のモチベーション向上
  • 企業の社会的信用の向上
  • 採用活動におけるアピール

にも繋がります。

日々の給与計算業務の中で、「あれ、これで合ってるかな?」と少しでも疑問に思ったら、そのままにせず、厚生労働省のウェブサイトを確認したり、社会保険労務士(社労士)などの専門家に相談したりすることをおすすめします。

もし具体的なご相談事項や、自社の給与計算・労務管理の見直し、アウトソーシングなどにご興味がございましたら、どうぞお気軽に弊社までお問い合わせください。専門のスタッフが丁寧に対応させていただきます。