2026年労働基準法改正の方向性は?報告書のポイントまとめ(全6回連載・第1回)

※本連載記事に関する重要なお知らせ※
本記事は、2025年11月に厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」より公表された報告書の内容に基づき執筆しています。
記事内で解説している内容は、あくまで現時点での「提言」や「検討の方向性」であり、決定した法律ではありません。
今後の労働政策審議会での議論や国会審議を経て、内容が変更される可能性があります。
最新の動向を注視しつつ、将来の法改正に向けた「備え」としてお読みください。
2025年11月、日本の「働き方」の未来を左右する極めて重要な報告書が公表されました。
厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」によるこの報告書は、2026年の施行を目指して議論が進む「労働基準法改正」の設計図とも言えるものです。
今回の改正議論は、数年前の「働き方改革」に匹敵、あるいはそれ以上のインパクトを中小企業の実務に与える可能性があります。
まだ法案として確定したわけではありませんが、示された「方向性」は非常に明確です。
本連載(全6回)では、経営者や人事担当者の皆様が今のうちから押さえておくべき重要論点を深掘りしていきます。
第1回は、全体の「概要」と「5つの柱」について解説します。
1. なぜ今、再び「大改正」の議論なのか?
「働き方改革関連法」が施行されてから数年が経ち、時間外労働の上限規制などは定着しつつあります。
しかし、少子高齢化による労働人口の減少は加速する一方で、依然として長時間労働による健康被害(過労死やメンタルヘルス不調)の問題は解決していません。
今回の報告書では、これからの労働法制が目指すべき姿として、大きく2つのテーマが掲げられています。
①「守り」の強化:健康確保のアップデート
働く人の心身の健康を確実に守るため、これまでの規制では不十分だった部分(抜け穴)を塞ぎ、休息をより厳格に確保する方向性です。
人口減少社会において、「働き手」は貴重な資源であり、彼らが長く健康に働ける環境を作ることは国益に直結するという考え方が背景にあります。
②「支える」仕組み:多様な働き方への対応
副業・兼業、フリーランス、テレワークなど、働き方が多様化する中で、昭和の時代に作られた硬直的なルールが阻害要因になっている場合があります。
これを解消し、意欲ある人が柔軟に働ける環境を「支える」ための見直しも同時に検討されています。
特に中小企業経営者にとって影響が大きいのは、①の「守り(規制強化)」の部分でしょう。
報告書では、これまでの「努力義務」を「義務」へと引き上げるような強い提言も含まれています。
2. 報告書で示された「5つの重要検討ポイント」
報告書では多岐にわたる論点が整理されていますが、中小企業の実務に直結するのは主に以下の5点です。
これらは「決定事項」ではありませんが、法改正の「本命」として議論が進められている重要項目です。
検討ポイント①
一定期間の連続勤務禁止(例:14日連勤の禁止)
現行法では、変形休日制などを駆使すれば、計算上は「48連勤」なども可能になってしまう法の抜け穴が存在します。
報告書では、これを問題視し、例えば「14日以上の連続勤務を禁止する」といった具体的な規制を設ける方向性が示されました。
実現すれば、シフト管理の根本的な見直しが必要になります。
検討ポイント②
勤務間インターバル制度の「義務化」検討
勤務終了から翌日の始業までに一定の休息時間(11時間など)を空ける「勤務間インターバル制度」。
現在は「努力義務(導入に努めること)」にとどまっていますが、これを原則として「義務化」するよう提言されています。
「遅番の翌日は早番禁止」といったルールが法律になる可能性があります。
検討ポイント③
週44時間特例措置の廃止・見直し
商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業で、従業員10人未満の事業場に認められている「週44時間労働」の特例。
これについて、健康確保や業種間の公平性の観点から廃止し、「週40時間」へ統一する方向性が打ち出されました。
小規模なクリニックや飲食店などは、残業代コスト増の対策が急務となります。
検討ポイント④
副業・兼業の割増賃金計算ルール(通算廃止案)
副業推進の最大のネックとなっていた「本業と副業の労働時間通算」による残業代計算。
報告書では、計算の煩雑さを解消するため、「割増賃金の計算においては通算しない」という大胆な簡素化案が示されています。
これにより、企業は副業を認めやすくなる可能性があります。
検討ポイント⑤
法定休日の「特定」義務化
現在は、週1回の法定休日について「具体的にいつか」を特定する法的義務はありません。
しかし、これでは割増賃金の計算が不明確になりがちです。
報告書では、「法定休日をあらかじめ特定(明示)すること」を義務付ける方向で議論されています。
これは必ずしも「毎週日曜日」と曜日を固定することだけでなく、シフト制の場合には「シフト表上でどの休日が法定休日かを事前に決めておく」といった対応も含まれる見込みです。
3. 中小企業へのインパクトと今後のスケジュール
これらの改正案がすべて実現した場合、特に影響を受けるのは、「シフト制のサービス業」「医療・介護・福祉」「運送業」「繁忙期のある建設・製造業」などです。
「なんとなく現場の裁量で回していたシフト」や、「曖昧だった休日ルール」は通用しなくなります。
今後のスケジュールとしては、この報告書をたたき台として労働政策審議会での詳細な議論が行われます。
順調に進めば、2026年の通常国会への法案提出、そして成立・施行を目指すロードマップが想定されています。
もちろん、経済界からの反発や実務への配慮を求める声により、内容は修正される可能性があります。
しかし、「労働者の健康確保(インターバルや連勤防止)」という大きな流れが変わることはないでしょう。
4. 「決定前」の今、経営者がすべきこと
「まだ決まっていないなら、決まってから考えればいい」と思われるかもしれません。
しかし、今回示された方向性は、いずれも「ホワイト企業への転換」を促すものです。
法改正の有無にかかわらず、例えば「14日も連勤させない」「しっかり睡眠時間を確保させる」ことは、採用難の現在において、求職者に選ばれる企業になるための必須条件です。
法改正への対応を単なる「コスト増・手間」と捉えず、「組織体制を筋肉質にするチャンス」と捉えてみてください。
次回からは、これら5つのポイントを一つずつ深掘りし、もし実現した場合に実務でどのような準備が必要になるかをシミュレーションしていきます。
まずは自社の現状を知ることから始めましょう。
「うちは大丈夫」と思っていても、勤怠データを見ると意外な長時間労働や不規則なシフトが隠れているものです。
社労士事務所ぽけっとでは、現状の就業規則や勤怠管理の無料診断も行っていますので、お気軽にお声がけください。
【免責事項】
本記事は、2025年12月7日時点で公表されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」等の情報に基づき作成しています。記事内で紹介している法改正の方向性や内容は現時点での提言であり、今後の国会審議等を経て変更される可能性があります。本記事の情報を用いて行う一切の行為について、当事務所は何ら責任を負うものではありません。具体的な実務対応にあたっては、最新の公式情報を確認するか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。


