【社労士が解説】決定後の標準報酬月額、従業員への通知はどうすればいい?4つの方法を提案

こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。
経営者や人事担当者の皆様、今年の「算定基礎届」の提出、大変お疲れ様でした。
年に一度の重要な手続きを終え、ほっと一息つかれている頃ではないでしょうか。
さて、算定基礎届の提出が終わると、次は9月からの新しい「標準報酬月額」が決定され、その通知が届きます。
この決定通知書、会社で受け取って「はい、終わり」としていませんか?
実は、決定された標準報酬月額は、会社から従業員一人ひとりへ通知することが法律で義務付けられています。
「え、そうなの?」「いつもどうしてたかな…」と不安に思った経営者や人事担当者の方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、なぜ通知が必要なのか、そして具体的にどのような方法で通知すれば良いのかを、分かりやすく解説していきます。
そもそも「標準報酬月額」ってなんだっけ?
本題に入る前に、少しだけ「標準報酬月額」についておさらいしましょう。
標準報酬月額とは、健康保険・介護保険・厚生年金保険といった社会保険料の金額を計算するための「基準となる給与額」のことです。
この金額は、主に以下の3つのタイミングで決定・改定されます。
- 資格取得時決定(入社時):会社に入社して社会保険に加入する際に、雇用契約書などで定められた給与額をもとに決定されます。
- 定時決定(算定基礎届):今回のテーマである、年に一度の見直しです。毎年4月・5月・6月に支払われた給与の平均額をもとに新しい標準報酬月額を決定し、原則としてその年の9月から翌年8月までの1年間、この金額を使用します。
- 随時改定(月額変更届):昇給や降給などで給与額に大幅な変動があった場合に、次の定時決定を待たずに年の途中で改定されます。
従業員にとっては、毎月の給与から天引きされる社会保険料の額だけでなく、病気やケガで会社を休んだ際の傷病手当金の額や、将来受け取る年金額にも関わってくる、とても大切な金額なのです。
なぜ従業員への通知が「義務」なのか?
標準報酬月額を従業員へ通知することは、健康保険法 第四十九条第二項 および 厚生年金保険法 第二十九条第二項で事業主の義務として定められています。
健康保険法 第四十九条
第一項 保険者等は、第三十九条第一項の規定による被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬の決定及び改定並びに保険給付に関する処分(被保険者証の交付及び返還に関する処分を含む。)をしたときは、その旨を事業主に通知し、又はこれを被保険者に通知し、若しくは被保険者証に記載しなければならない。
第二項 事業主は、前項の通知があつたときは、すみやかに、これを被保険者又は被保険者であつた者に通知しなければならない。(e-Gov法令検索「健康保険法」より抜粋)
厚生年金保険法 第二十九条
第一項 実施機関は、第十八条第一項の規定による被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬の決定及び改定又は標準賞与額の決定に関する処分をしたときは、その旨を事業主に通知し、又はこれを被保険者に通知しなければならない。
第二項 事業主は、前項の通知があつたときは、遅滞なく、これを被保険者(主務省令で定める処分については、被保険者であつた者)に通知しなければならない。(e-Gov法令検索「厚生年金保険法」より抜粋)
法律で定められているから、というのはもちろんですが、それ以外にも大切な理由があります。
- 従業員の納得感を得るため:「なぜ今月から社会保険料の額が変わったんだろう?」という従業員の疑問を解消し、給与計算の透明性を高めます。
- 労使間の信頼関係を築くため:大切な情報をきちんと共有してくれる会社だ、という信頼に繋がります。
- 従業員自身の生活設計のため:手取り額の変動を事前に把握でき、将来の年金額への意識も高まります。
このように、従業員への通知は、単なる事務作業ではなく、従業員との良好な関係を築くための重要なコミュニケーションの一環と言えるでしょう。
【具体的に提案】標準報酬月額の4つの通知方法
では、具体的にどのような方法で通知すれば良いのでしょうか。
会社の規模や状況に合わせて選べるよう、4つの方法をメリット・デメリットと共にご紹介します。
方法1:『健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬月額決定通知書』をそのまま配布する
算定基礎届を提出後、年金事務所から送られてくる「決定通知書」。
現在は個人情報保護の観点から、従業員一人ずつの形式で発行されます。
これをコピーして従業員に渡すのが最もシンプルな方法です。
- メリット:公的な書類で正確性が高く、会社として作成の手間が全くかかりません。個人別に発行されるため、他の従業員の情報を気にする必要もありません。
- デメリット:書類の文面が専門的で、従業員によっては内容が分かりにくい場合があります。また、会社からの補足説明などを加えにくいため、少し事務的な印象を与えてしまう可能性があります。
方法2:給与明細に記載する
毎月渡す給与明細書の備考欄などに、新しい標準報酬月額を記載する方法です。
- メリット:従業員が毎月の給与明細と一緒に確認できるため、保険料の変動と合わせて理解しやすいです。給与計算システムが対応していれば、自動で印字できるため手間もかかりません。
- デメリット:給与計算ソフトや明細書のフォーマットが対応している必要があります。手書きで追記するのは手間がかかり、漏れやミスの原因にもなり得ます。
方法3:会社独自の「通知書」を作成して個別に渡す
会社独自のフォーマットや、日本年金機構が提供している様式例を参考に、通知書を作成して一人ひとりに配布する方法です。
- メリット:他の従業員の個人情報が漏れる心配がありません。会社のロゴを入れたり、分かりやすい言葉で補足説明を加えたりと、丁寧な印象を与えることができます。
- デメリット:従業員の人数分、個別に作成する必要があるため、手間と時間がかかります。WordやExcelでの差し込み印刷などを活用すると、効率化できます。
日本年金機構のホームページでは、事業主から被保険者への通知様式の例(Excel形式)が公開されています。必要な情報が網羅されているため、こちらをダウンロードして活用するのも良いでしょう。
方法4:社内ポータルサイトやイントラネットで通知する
従業員が個別にログインできる社内ポータルサイトなどがある場合、そこで通知する方法です。
- メリット:ペーパーレス化を実現でき、印刷や配布のコスト・手間を削減できます。従業員はいつでも自分の情報を確認できます。
- デメリット:全従業員がPCやスマートフォンでアクセスできる環境が整っている必要があります。また、通知を掲載しただけでは従業員が見落とす可能性もあるため、「必ず確認してください」といった周知徹底が必要です。
【まとめ】自社に合った方法で、確実な通知を
ご紹介したように、標準報酬月額の通知には様々な方法があります。
どの方法が一番良い、という絶対的な正解はありません。
会社の規模、従業員数、IT環境、そして何より「従業員にどう伝えたら一番分かりやすいか」という視点で、自社に合った方法を選ぶことが大切です。
例えば、基本は給与明細に記載しつつ、より詳しい説明を希望する従業員には、年金事務所から届いた「決定通知書」決定通知書のコピーを渡す、といった組み合わせも有効です。
標準報酬月額の通知は、法律上の義務であると同時に、従業員との信頼関係を深めるための大切なコミュニケーションです。
入社時や昇給時、そして年に一度の定時決定など、標準報酬月額が決定・改定される機会は複数あります。
それぞれの機会を捉え、その重要性を再認識し、確実な実施を心がけましょう。
「算定基礎届の作成から従業員への通知まで、専門家に任せて本業に集中したい…」
「うちの会社に合った通知方法を一緒に考えてほしい」
そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度、社労士事務所ぽけっとにご相談ください。
給与計算や社会保険手続きのプロとして、貴社に最適なサポートをご提案いたします。
【免責事項】
本記事の内容は、公開日時点の情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成しております。法改正等により情報が変更となる可能性があります。個別の事案に対する具体的な判断については、必ず専門家にご相談ください。