短時間正社員の給与計算&社会保険、どうなる? 徹底解説!

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「優秀な人材を採用したいけど、フルタイム勤務が難しいと言われて…」 「育児や介護を理由に、社員から勤務時間を短くしたいと相談された…」 「短時間正社員制度って聞くけど、給与計算や社会保険はどうすればいいの?」

人材確保や多様な働き方への対応は、今や多くの企業にとって重要な経営課題ですよね 。特に、意欲も能力も高いのに、様々な事情でフルタイム勤務が難しい…そんな人材の活躍を後押しする切り札として注目されているのが「短時間正社員制度」です 。  

しかし、いざ導入を検討しようとすると、「給与はどう計算するの?」「社会保険には入れるの?」といった具体的な疑問が出てくるのではないでしょうか。

この記事では、事業主の皆様が短時間正社員制度を導入・運用する上で特に気になる「給与計算」と「社会保険の加入可否」について、ポイントを絞って分かりやすく、そして具体的に解説していきます。

まずはおさらい!「短時間正社員」とは?

本題に入る前に、短時間正社員の定義を確認しておきましょう。厚生労働省によると、以下の2つの条件を両方満たす社員のことです 。  

  1. 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を結んでいること
  2. 時間あたりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法が、同じ事業所で同じ種類の仕事をしているフルタイムの正社員と同等であること

ポイントは、働く時間はフルタイムより短いけれど、雇用期間に定めがなく(無期雇用)、給与や賞与などの計算ルール(算定方法)はフルタイム正社員と同じである、という点です。つまり、身分としては「正社員」なのです 。  

よく似た働き方として「パートタイマー」や、育児・介護休業法に基づく「時短勤務」がありますが、これらとは明確に異なります。

  • パートタイマーとの違い: パートタイマーは有期契約が多く、時給制で賞与・退職金の算定基準も正社員と異なることが一般的ですが、短時間正社員は無期契約で、時間あたりの基本給や賞与・退職金の算定方法がフルタイム正社員と同等です 。  
  • 育児・介護休業法に基づく「時短勤務」との違い: 一般的に「時短勤務」というと、育児・介護休業法で定められた制度を指すことが多いです。これは、3歳未満の子どもを育児中の社員や、要介護状態にある家族を介護する社員が、法律に基づき申し出ることによって利用できる、法律で義務付けられた制度です 。 一方、「短時間正社員制度」は、企業が任意で導入する制度であり、利用理由も育児や介護に限りません 。自己啓発や社会貢献活動、自身の健康維持、あるいは定年後の継続雇用など、様々な理由で活用できます 。また、育児・介護の時短勤務が原則として一時的な措置であるのに対し、短時間正社員は恒常的な働き方として設定することも可能です 。さらに、既存社員の転換だけでなく、最初から短時間正社員として採用することもできます 。 つまり、短時間正社員制度は、法律で定められた最低限の配慮を超えて、企業がより積極的に多様な働き方を支援し、幅広い人材を活用するための自主的な取り組みと言えます。  

この違いを理解しておくことが、適切な制度設計と運用の第一歩となります。

短時間正社員の「給与計算」:2つの大原則と具体的な計算方法

さて、本題の給与計算です。短時間正社員の給与を計算する上で、絶対に押さえておきたい2つの大原則があります。

原則1:労働時間比例の原則
基本給や賞与、退職金などの「支給額」そのものは、基本的に、フルタイム正社員の所定労働時間に対する短時間正社員の所定労働時間の割合に応じて減額(比例配分)します 。これを「プロラタ計算」や「時間比例按分」などと呼びます。  

原則2:算定方法の同等性の原則
支給額を計算する際の「計算方法」や「基準」(時間単価、評価基準、賞与の支給月数、退職金の算定式など)は、同じ仕事内容・責任のフルタイム正社員と同じでなければなりません 。ここが短時間正社員の定義の根幹であり、パートタイマーとの大きな違いです。  

この2つの原則を踏まえて、具体的な項目を見ていきましょう。

基本給の計算

最もシンプルなのが基本給です。原則として、対応するフルタイム正社員の基本給を、労働時間の比率で按分します 。  

計算例: フルタイム正社員(1日8時間・週40時間)の基本給が月額32万円の場合、 1日6時間・週30時間勤務の短時間正社員の基本給は… 月額32万円 × (6時間 / 8時間) = 月額24万円 となります 。  

※計算方法には、基本給月額自体を改定する方法の他に、フルタイムの月額から不足時間分を控除する方法などもありますが、社会保険の手続きなどを考えると、月額自体を改定する方が分かりやすいでしょう 。  

賞与(ボーナス)の計算

賞与も「算定方法の同等性」がポイントです 。  

  • 基本給連動型の場合: 賞与額が「基本給 × 支給月数」で決まるなら、短時間正社員の(比例減額された)基本給をベースに、フルタイム正社員と「同じ支給月数」を掛けて計算します 。 (例:フルタイムが基本給の3ヶ月分なら、短時間正社員も(短縮後の)基本給の3ヶ月分)  
  • 業績・評価連動型の場合: 会社の業績や個人の評価結果で賞与額が決まるなら、フルタイム正社員と「同じ評価基準・算定式」を使って計算します 。勤務時間が短いこと自体を理由に、評価基準を不利にしたり、計算式を変えたりすることはできません。ただし、評価項目の中に労働時間や成果量が影響するものがあれば、結果として賞与額に差が出ることはあり得ます。  

退職金の計算

退職金も、賞与と考え方は同じです。「算定方法の同等性」が厳格に求められます 。  

  • 計算方法の例
    • 最終給与比例方式: 退職時の(比例減額された)基本給を算定基礎額とし、フルタイム正社員と同じ勤続年数に応じた支給率を乗じます 。  
    • ポイント制: 勤続年数や役職・等級に応じたポイントを、フルタイム正社員と同じ基準で付与し、累積ポイントに基づいて計算します 。  
  • 注意点:フルタイムからの移行期間がある場合 途中でフルタイムから短時間正社員に変わった社員の場合、単純に最終的な(減額された)給与を全期間に適用すると、フルタイム期間の貢献を不当に低く評価してしまう可能性があります 。そのため、フルタイム期間と短時間勤務期間を分けて計算し合算する方法や、勤続年数のカウント方法を調整するなどの工夫が必要です 。退職金規程で明確なルールを定めておくことが非常に重要であり、複雑な場合は専門家への相談も検討しましょう。  

時間外労働(残業)の計算

短時間正社員は、その働き方の性質上、原則として残業は想定されていません 。しかし、万が一発生した場合の賃金計算は以下のようになります。  

  • 所定労働時間を超え、法定労働時間(1日8時間・週40時間)までの労働(法定内残業): 通常の時間単価(割増なし)で計算するのが一般的です。
  • 法定労働時間を超える労働(法定外残業): 労働基準法に基づき、通常の時間単価の1.25倍以上の割増賃金が必要です 。  
  • 深夜労働(22時~翌5時): 法定労働時間内でも1.25倍以上、法定時間外かつ深夜なら合計1.5倍以上の割増が必要です 。  

割増賃金の計算の基礎となる「通常の時間単価」は、短時間正社員の(比例減額された)基本給などから算出しますが、その時間単価自体はフルタイム正社員と同等になります 。  

【給与計算のポイントまとめ】

  • 基本原則: 支給額は「労働時間比例」、計算ルールは「フルタイムと同等」。
  • 基本給: フルタイム給与 × (短時間労働時間 / フルタイム労働時間)。
  • 賞与・退職金: フルタイムと同じ「計算方法・基準」を適用。移行期間の扱いに注意。
  • 残業代: 法定時間を超えれば割増必要。基礎単価はフルタイムと同等。

短時間正社員の「社会保険」加入できる?できない? ステップで判断!

次に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)と雇用保険の加入要件についてです。「うちの短時間正社員は社会保険に入れるの?」これは非常に重要な問題ですよね。特に健康保険・厚生年金保険の加入要件は少し複雑なので、以下のステップで順番に確認していくのが確実です。

健康保険・厚生年金保険の加入要件:3つのステップでチェック!

短時間勤務の社員が健康保険・厚生年金保険に加入するかどうかは、以下の3つのステップで判断します。いずれかのステップで「加入対象」となれば、加入手続きが必要です。

ステップ1:「4分の3基準」を満たすか確認する

まず基本となるのが、この「4分の3基準」です 。これは、1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数の両方が、同じ事業所で働く通常の労働者(フルタイム正社員)の4分の3以上であるかどうかを確認するものです。両方を満たしていれば、原則として加入対象となります。(※年次有給休暇の取得日も所定労働日数に含めて計算します )  

ステップ2:(ステップ1を満たさない場合)就業規則等で定める「短時間正社員」の定義に該当するか確認する

ここが短時間正社員制度の大きな特徴です! たとえステップ1の「4分の3基準」を満たさない場合でも、会社の就業規則や労働契約書、給与規程などで「短時間正社員」として明確に定義されており、その定義が「期間の定めのない労働契約(無期雇用)であること」、かつ「時間あたりの基本給や賞与、退職金などの算定方法がフルタイムの正社員と同じであること」という条件を満たしていれば、その社員は労働時間や日数の長短に関わらず、健康保険・厚生年金保険の加入対象となります 。この基準を適用するには、就業規則等での適切な規定と、実際の運用がその規定に沿っていることが大前提となります 。

ステップ3:(ステップ1・2いずれも満たさない場合)「適用拡大」の要件をすべて満たすか確認する

ステップ1の「4分の3基準」も満たさず、ステップ2の「短時間正社員の定義」にも該当しない場合(例えば、有期契約のパートタイマーや、待遇が正社員と異なる短時間勤務者など)であっても、以下の5つの条件をすべて満たす場合は、健康保険・厚生年金保険に加入しなければなりません 。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること。
  2. 雇用期間が2ヶ月を超えて見込まれること。(契約当初は2ヶ月以内でも、更新が見込まれる場合は当初から該当します )
  3. 賃金の月額が88,000円以上であること。(これは残業代、賞与、通勤手当、家族手当などを除いた、毎月決まって支払われる所定内賃金で判断します )
  4. 学生でないこと。(ただし、夜間学生や休学中の学生、卒業後も継続勤務予定の学生などは加入対象となる場合があります )
  5. 勤務先の企業規模が一定以上であること。
    • 【重要!】2024年10月1日からは、厚生年金保険の被保険者数が常時「51人以上」の企業が対象となります 。 (※それ以前は101人以上でした。企業規模は、法人番号が同一であれば支店等も含めた企業全体の厚生年金被保険者数で判断し、直近12ヶ月のうち6ヶ月以上基準を満たした場合に該当します )  

このステップ3の条件は、5つすべてを満たして初めて加入対象となります。一つでも満たさない項目があれば、このステップでは加入対象外です。

【健康保険・厚生年金保険 加入要件チェックの考え方】

まず「4分の3基準」を確認し、満たせば加入。満たさなければ次に「短時間正社員の定義」に該当するか確認し、該当すれば加入。それも該当しなければ最後に「適用拡大の5要件」をすべて満たすか確認し、すべて満たせば加入。いずれのステップでも加入対象とならなければ、加入義務はありません(任意適用を除く)。

雇用保険の加入要件:シンプルに2つの条件!

雇用保険の加入要件は、健康保険・厚生年金保険に比べてシンプルです。以下の2つの条件を両方満たせば加入対象となります。

  • チェック項目:
    1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること  
    2. 31日以上の雇用見込みがあること  
  • 判断: 両方を満たせば、加入対象です。

つまり、短時間正社員であっても、週の所定労働時間が20時間未満の場合は、雇用保険には加入できません 。これは、たとえ上記のステップ2の基準で健康保険・厚生年金保険の加入対象となったとしても同じです。  

【社会保険加入のポイントまとめ】

  • 健康保険・厚生年金: 「4分の3基準」「短時間正社員定義」「適用拡大要件(企業規模含む)」の順にチェック。いずれかで該当すれば加入要。2024年10月からの企業規模要件(51人以上)に注意!
  • 雇用保険: 週20時間以上 + 31日以上の雇用見込みで加入要。

制度導入・運用のカギは「就業規則」と「公平性」

短時間正社員制度をスムーズに導入し、効果的に運用するためには、給与計算や社会保険の手続きを正確に行うことはもちろん、以下の点にも注意が必要です。

  • 就業規則の整備が必須! 短時間正社員という新しい働き方を設ける場合、その定義、労働時間、賃金(計算方法含む)、評価、社会保険の適用などを就業規則(または関連規程)に明確に規定し、労働基準監督署に届け出ることが法律で義務付けられています(常時10人以上の労働者を使用する場合)。これは、社会保険の加入要件(ステップ2)の判断基準にもなりますし 、助成金の申請要件となる場合もあります 。何より、ルールを明確にすることで、労使間の無用なトラブルを防ぐことができます 。  
  • フルタイム社員との「公平性」への配慮 「同じ正社員なのに、あの人だけ早く帰れて不公平だ」「短時間勤務の人の分の仕事が回ってきて負担が増えた」といった不満がフルタイム社員から出る可能性があります 。これを防ぐには、制度導入の目的や内容を丁寧に説明し、理解を求めること 、そして労働時間だけでなく貢献度や成果に基づいた公平な評価制度を設計・運用することが重要です 。  
  • コスト管理も忘れずに 短時間正社員は、パートタイマーと比べると、社会保険料の会社負担や、賞与・退職金の支給により、人件費が高くなる可能性があります 。導入にあたっては、コストと、優秀な人材確保・定着といったメリットを比較検討しましょう。キャリアアップ助成金など、活用できる助成金がないかも確認すると良いでしょう 。  

【まとめ】給与と保険のルールを正しく理解し、制度を有効活用しよう!

短時間正社員制度は、多様な人材を活かし、企業の成長につなげる可能性を秘めた制度です。しかし、その導入・運用にあたっては、今回解説した「給与計算」と「社会保険」のルールを正確に理解し、適切に対応することが不可欠です。

特に、

  • 給与計算における「労働時間比例」と「算定方法の同等性」の原則
  • 社会保険(健康保険・厚生年金)加入要件の段階的な判断と、2024年10月からの適用拡大

は、必ず押さえておきたいポイントです。

これらのルールを遵守し、就業規則をしっかりと整備した上で、社内の理解を得ながら運用していくことが、制度成功の鍵となります。

制度導入・運用でお困りなら、専門家にご相談ください!

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短時間正社員制度の導入・運用は、専門的な知識が必要となる場面も少なくありません。給与計算や社会保険の手続き、就業規則の作成・変更など、少しでも不安や疑問があれば、ぜひ人事労務の専門家である社会保険労務士にご相談ください。

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