【副業・兼業】「労働時間通算」の見直し案。新ルールの方向性は?(全6回連載・第4回)

※本記事に関する重要なお知らせ※
本記事は、2025年11月に厚生労働省「労働基準関係法制研究会」より公表された報告書の内容に基づき執筆しています。解説内容は現時点での「提言」や「検討の方向性」であり、決定事項ではありません。今後の法改正議論の参考としてお読みください。
「従業員から『副業をしたい』と言われたが、残業代の計算が複雑すぎて許可できない…」
そんな悩みを抱える経営者様に、大きな転機が訪れるかもしれません。
2026年改正に向けた議論の中で、副業・兼業の最大のボトルネックである「労働時間通算ルール」の簡素化が提言されました。
今回は、その詳細と、もし実現した場合の実務への影響を解説します。
1. なぜ、今まで副業解禁が進まなかったのか?
政府が「副業・兼業の促進」を掲げて久しいですが、中小企業の現場ではなかなか解禁が進んでいません。
その最大の理由は、現行の労働基準法第38条にある「事業場を異にする場合においても、労働時間を通算する」という規定にあります。
このルールにより、企業には以下の重い負担が課せられていました。
【現行ルールの難点】
例えば、A社(本業:8時間勤務)の後に、B社(副業:2時間勤務)で働く場合、通算すると1日10時間労働となります。
法律上、法定労働時間(1日8時間)を超えた2時間分については、後から契約した会社(この場合はB社)が割増賃金(残業代)を支払う義務が生じます。
さらに、A社もB社も、互いの労働時間を把握し、自社の労働時間と合算して管理しなければなりません。
この「他社での労働時間を正確に把握し、通算して残業代を計算する」という事務負担とコストリスクが、企業が副業を許可する際の大きな足かせとなっていたのです。
2. 報告書で示された新提案:「割増賃金計算の通算廃止」
こうした実態を踏まえ、研究会報告書では、副業・兼業をより円滑に進めるための抜本的な見直し案が示されました。
提案内容
割増賃金の計算においては、労働時間を通算しない
つまり、「A社はA社の労働時間だけで、B社はB社の労働時間だけで、それぞれ残業代を計算すればよい(他社の時間は無視してよい)」というシンプルなルールへの変更が検討されています。
もしこの改正が実現すれば、企業側のメリットは非常に大きくなります。
- 事務負担の激減:他社のタイムカードを取り寄せて計算する必要がなくなります。
- 予期せぬコスト増の回避:「採用したアルバイトが実は他で働いていて、初日から割増賃金を払わなければならない」といった事態がなくなります。
3. 注意!「健康管理」の責任は残る方向
ここで注意しなければならないのは、「すべてが放任になるわけではない」という点です。
報告書では、金銭面(割増賃金)の通算は廃止しても、「健康管理の面」での通算管理は維持すべきという方向性が示されています。
具体的には、以下のような責務が残る可能性があります。
- 本人からの申告等により、副業先を含めた総労働時間を把握する義務。
- 本業と副業を合わせて「過労死ライン」を超えるような働き方をしている場合、企業として是正措置(自社の残業を減らす、副業を制限する等)をとる義務(安全配慮義務)。
つまり、「残業代は払わなくてよくなるかもしれないが、働きすぎで倒れないように見守る責任はなくならない」ということです。
4. 中小企業が副業人材を活用するチャンスに
この改正案が実現すれば、副業を受け入れるハードルは格段に下がります。
これは中小企業にとって、「優秀な人材をスポットで活用できるチャンス」でもあります。
フルタイムで雇う予算はないけれど、週に数時間だけ、専門スキルのある他社の社員に手伝ってもらう。
そんな柔軟な人材活用が、事務負担を気にせずに行えるようになるかもしれません。
【まとめ】就業規則の見直し準備を
まだ議論の途中ではありますが、「副業の計算をシンプルにする」という方向性は、働き方の多様化に合わせて避けられない流れです。
今のうちから、「もし副業を解禁するとしたら、どんなルール(申請制・届出制など)にするか」「健康管理をどう行うか」について、社内で議論を始めておくことをお勧めします。
社労士事務所ぽけっとでは、副業規定の作成支援も行っています。
次回は、飲食店やクリニックなどの小規模事業場に大きな影響を与える「週44時間特例措置」の見直し議論について解説します。
【免責事項】
本記事は、2025年12月7日時点で公表されている厚生労働省「労働基準関係法制研究会報告書」等の情報に基づき作成しています。記事内で紹介している法改正の方向性や内容は現時点での提言であり、今後の国会審議等を経て変更される可能性があります。本記事の情報を用いて行う一切の行為について、当事務所は何ら責任を負うものではありません。具体的な実務対応にあたっては、最新の公式情報を確認するか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。


