パート・アルバイトの社会保険適用がさらに拡大!中小企業が今から準備すべきこと

こんにちは!「社労士事務所ぽけっと」です。
「働き方が多様化しているけれど、うちの会社の社会保険のルールはこれで合っているのかな?」
「パートさんの『106万円の壁』って、今後どうなるんだろう?」
中小企業の経営者様や人事担当者様なら、このような疑問を一度は抱いたことがあるかもしれませんね。
実は、まさにその社会保険のルールを大きく変える法律が、2025年6月13日に国会で成立しました。
今回は、この非常に新しい法改正の中から、特に中小企業に大きな影響がある「被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大」について、解説していきます。
今後の給与計算や社会保険の手続きに直結する大切な内容です。ぜひ最後までお付き合いください。
なぜ今、社会保険の適用が拡大されるの?
今回の法改正の大きな目的は、働き方によって保障に差が出ない、より公平な制度を作ることです。
パートやアルバイトといった短時間で働く方々も、正社員と同じように手厚い社会保険の保障を受けられるようにすることで、誰もが安心して長く働き続けられる社会を目指しています。
人口減少が進む中で、企業にとっては人材を確保しやすくなるというメリットも期待されています。
【3つのポイント】今回の法改正で何が変わるのか?
今回の適用拡大のポイントは、大きく分けて3つあります。一つずつ見ていきましょう。
ポイント1:対象となる「企業規模」の要件が段階的になくなります!
これまで、パート・アルバイトの方が社会保険の加入対象となるかどうかの基準の一つに「従業員数」がありましたが、この要件が段階的に撤廃されます。
<企業規模要件の段階的撤廃スケジュール>
実施時期 | 企業規模(常勤の従業員数) |
---|---|
~2024年9月 | 101人以上 |
2024年10月~ | 51人以上 |
(改正後)2027年10月~ | 36人以上 |
(改正後)2029年10月~ | 21人以上 |
(改正後)2032年10月~ | 11人以上 |
(改正後)2035年10月~ | 11人未満(事実上、規模要件撤廃) |
ご覧の通り、数年後には従業員が11人以上のすべての企業が対象となり、最終的には企業の規模に関わらず、条件を満たすパート・アルバイトの方は社会保険に加入することになります。
「うちはまだ先」と思わずに、今から準備を進めていくことが大切です。
ポイント2:「賃金要件(106万円の壁)」がなくなります!
これまで、適用拡大の対象となる短時間労働者には「賃金が月額8.8万円以上(年収約106万円以上)」という要件がありました。
いわゆる「106万円の壁」です。
今回の改正で、この賃金要件が撤廃されることになりました。
(施行は公布から3年以内の政令で定める日)
今後は、賃金額に関わらず「週の所定労働時間が20時間以上」などの他の要件を満たせば、社会保険の加入対象となります。
これにより、これまで対象外だった多くのパート・アルバイトの方が新たに加入することになると予想されます。
ポイント3:「個人事業所」の対象業種が拡大されます!
これまでは法律で定められた16業種以外の個人事業所(例えば、農業、林業、飲食サービス業、宿泊業など)は、従業員が5人以上いても社会保険の適用事業所ではありませんでした。
今回の改正でこの業種制限がなくなり、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所は、原則としてすべて社会保険の適用事業所となります。(施行は2029年10月)
※ただし、施行時に存在する事業所については、当面適用が除外される経過措置が設けられています。
中小企業が今から準備すべきこと
この大きな変化の波に乗り遅れないために、企業は何を準備すればよいのでしょうか。
- 対象となる従業員の把握
まずは、自社の従業員の中で、今回の改正によって新たに社会保険の加入対象となる可能性のある方が何人いるのかを正確に把握しましょう。 - 従業員への丁寧な説明
社会保険に加入すると、従業員にとっては将来の年金が増えたり、病気やケガの際の保障(傷病手当金など)が手厚くなったりする大きなメリットがあります。 一方で、保険料が給与から天引きされるため、手取り額が減ってしまうという側面もあります。 こうしたメリット・デメリットを丁寧に説明し、従業員の不安を解消することが不可欠です。 - 人件費のシミュレーション
企業にとっては、従業員の社会保険料の半分(労使折半)を負担することになります。新たに対象となる従業員数に応じて、会社の費用負担がどれくらい増えるのか、事前にシミュレーションしておくことが重要です。 - 支援策・助成金の活用検討
国は、企業の負担を軽減するための支援策を用意しています。- 保険料負担の軽減措置: 適用拡大の対象となる従業員の保険料負担を、3年間限定で軽減できる特例措置が設けられます。
- キャリアアップ助成金: 労働時間の延長や賃上げを通じて従業員の収入を増加させる事業主に対して、助成金(1人あたり最大75万円)が支給される予定です。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 扶養の範囲内で働きたいと言っているパートさんには、どう説明すればいいですか?
A1. 従業員の方が社会保険上の扶養の範囲内で働き続けたいと希望される場合、週の所定労働時間を20時間未満に調整することが、具体的な方法となります。
今回の法改正で「月額8.8万円以上」という賃金要件(いわゆる106万円の壁)が撤廃されるため、今後は「週の所定労働時間が20時間以上」であるかどうかが、社会保険に加入するかの大きな判断基準となるからです。
そのため、パートの方へ説明される際には、以下の2点を具体的にお伝えすると、より丁寧なご対応となります。
- 「20時間の壁」が重要になること
これまでの「106万円の壁」を意識した働き方から、今後は雇用契約上の「週20時間」が社会保険加入のラインになることを明確に伝えます。 - 働き方の選択肢とメリット・デメリットを提示すること
週20時間未満で働き扶養内にとどまる選択と、週20時間以上働いて社会保険に加入し、将来の年金や傷病手当金などの保障を手厚くする選択、それぞれのメリット・デメリットを一緒に考え、ご本人が納得して働き方を選べるようサポートすることが大切です。
Q2. 手続きはいつ頃から、何をすればいいですか?
A2. 企業規模要件の変更は、最も早いもので2027年10月から始まります。まずは対象者の洗い出しと、従業員への説明会などの準備を始めましょう。具体的な手続きとしては、対象となる従業員の「被保険者資格取得届」を管轄の年金事務所または事務センターへ提出する必要があります。顧問の社労士がいる場合は、スケジュールや具体的な手続きについて早めに相談しておくことをお勧めします。
Q3. 何もかも初めてで、何から手をつけていいか分かりません…
A3. ご安心ください。そのような経営者様、人事担当者様をサポートするのが、私たち社会保険労務士の役目です。今回の法改正は、給与計算や労務管理のあり方を見直す良い機会でもあります。従業員説明会の開催、助成金の申請、煩雑な社会保険の手続き代行など、専門家の視点から貴社に最適なサポートをご提案します。
まとめ
今回の社会保険の適用拡大は、中小企業にとって短期的には費用負担の増加や管理業務の複雑化といった課題をもたらすかもしれません。
しかし、長い目で見れば、従業員が安心して働ける環境を整えることは、人材の定着や生産性の向上に繋がり、企業の持続的な成長の礎となります。
「うちの会社は具体的にどうすればいいんだろう?」
「従業員への説明資料作りを手伝ってほしい」
そんなお悩みやご不安があれば、どうぞお気軽に「社労士事務所ぽけっと」までご相談ください。
【免責事項】
本記事は、2025年6月13日時点の公開情報に基づき作成しています。法改正の具体的な施行日や詳細な内容については、今後の政令等で定められる場合があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案に対する法的アドバイスを保証するものではありません。具体的なご相談については、専門家にお問い合わせください。