時給+固定手当の割増賃金単価、正しく計算できていますか?

こんにちは!
あなたの会社の「困った」に寄り添う、社労士事務所ぽけっとです。
パートやアルバイトの方の給与計算、「時給制だから簡単」と思っていませんか?
もし、基本の時給とは別に、毎月決まった額の手当(固定手当)を支給している場合、割増賃金(残業代など)の計算には少し注意が必要です。
「うちの会社、ある手当だけは月3,000円って固定で払ってるんだけど、この場合、割増賃金を計算するときの単価ってどうなるの?」
先日、ある経営者の方からこんなご質問をいただきました。
これは、給与計算で意外と見落としがちなポイントです。もし計算を間違えていると、「未払い残業代」が発生してしまうリスクも…。
そこで今回は、時給制の従業員に固定手当を支払っている場合の、正しい割増賃金単価の計算方法について、分かりやすく解説していきます。
結論:その固定手当、割増賃金の基礎に含める必要があります!
いきなり結論からお伝えします。
ご質問の「月3,000円の固定手当」は、原則として、割増賃金を計算するための基礎となる賃金に含めなければなりません。
「え、固定で払っている手当も残業代計算に関係あるの?」と驚かれた方もいるかもしれません。
労働基準法では、割増賃金の計算基礎について、次のように定められています。
割増賃金の基礎から「除外できる手当」は限定されている
法律では、割増賃金の基礎に含めなくてよい手当は、以下の7つに限定されています。
これらは、労働との直接的な関係が薄く、個人的な事情に基づいて支給される性格の手当だからです。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
重要なのは、これら7つ以外のすべての手当(例えば、精勤手当、役職手当、資格手当など)は、名称にかかわらず割増賃金の基礎に含めて計算する必要があるということです。
ご質問の「月3,000円の手当」が、この7つのどれにも該当しない「業務内容に関連する手当」や「皆勤手当」のようなものであれば、当然、割増賃金の基礎に算入します。
【具体例】時給+固定手当の場合の割増賃金単価の計算ステップ
では、実際にどのように計算するのか、具体的なモデルケースで見ていきましょう。
【モデルケース】
- 基本時給:1,200円
- 業務手当(固定):月額 3,000円
- 1か月の所定労働時間:160時間
この従業員が時間外労働(残業)をした場合の、割増賃金単価はいくらになるでしょうか。
ステップ1:月々の賃金総額を計算する
まず、割増賃金の基礎となる月々の賃金を計算します。これには、時給で計算した賃金と固定手当の両方を含めます。
(時給 1,200円 × 160時間) + 固定手当 3,000円 = 192,000円 + 3,000円 = 195,000円
ステップ2:1時間あたりの賃金額(割増賃金の基礎単価)を算出する
次に、ステップ1で計算した賃金総額を、月の所定労働時間で割って、1時間あたりの賃金額を算出します。これが割増賃金を計算する際の「基礎単価」となります。
賃金総額 195,000円 ÷ 160時間 = 1,218.75円
※1円未満の端数が出た場合は、50銭未満を切り捨て、50銭以上を切り上げる形で処理するのが一般的です。この場合は1,219円となります。(就業規則の定めに従います)
もし、固定手当を計算に含めないと、基礎単価は1,200円のままです。
しかし、正しくは1,219円(端数処理後)となり、この差額が未払い残業代につながるのです。
ステップ3:割増率を掛けて、各種割増賃金単価を計算する
最後に、ステップ2で算出した基礎単価に、それぞれの割増率を掛ければ、割増賃金単価が分かります。
- 時間外労働(残業):1,219円 × 1.25 = 1,523.75円 → 1,524円
- 休日労働:1,219円 × 1.35 = 1,645.65円 → 1,646円
- 深夜労働:1,219円 × 0.25 = 304.75円 → 305円(※深夜割増分)
※時間外労働が深夜に及んだ場合は、1.25 + 0.25 = 1.5(150%)の割増率となります。
給与計算は正確に!不安な時は専門家にご相談を
いかがでしたでしょうか。
「たかが数円、数十円の差」と感じるかもしれませんが、この差額も積み重なれば大きな金額になります。
そして、労働基準監督署の調査などで指摘されれば、過去2年分(将来的には最大5年分)の未払い分を、遅延損害金とともに支払うよう命じられる可能性もあります。
このようなリスクを避けるためにも、給与計算はルールに則って正確に行うことが非常に重要です。
- 「うちの手当は割増賃金の基礎に含めるべき?」
- 「自社の給与計算が正しくできているか、一度チェックしてほしい」
- 「複雑な給与計算は、いっそ専門家にアウトソーシングしたい」
そんなお悩みをお持ちの経営者様、人事担当者様は、ぜひ一度、社労士事務所ぽけっとにご相談ください。専門家の視点から、貴社の労務管理をしっかりとサポートさせていただきます。
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