給与ソフトの警告なし?「随時改定」の見落としやすい落とし穴とは?!

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こんにちは!社労士事務所ぽけっとです。

毎月の給与計算、本当に大変ですよね。特に中小企業の経営者様や人事担当者様は、他の業務と兼任されていることも多く、給与計算ソフトの自動計算に頼っているケースも多いのではないでしょうか。

しかし、その「自動計算」を過信していると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。それが、社会保険料の金額を決定する大切な手続き「随時改定(ずいじかいてい)」の見落としです。

今回は、特に給与ソフトだけでは気づきにくい、随時改定の落とし穴について、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説していきます。「うちの会社は大丈夫かな?」と、ぜひチェックしながら読み進めてみてください。

そもそも「随時改定(月額変更届)」とは?

まずは基本のおさらいです。

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は、従業員一人ひとりの給与額を元に計算される「標準報酬月額」という基準によって決まります。この標準報酬月額は、毎年1回、4月~6月の給与を元に見直されます(これを「定時決定」といいます)。

しかし、年の途中で大幅に給与が変動した場合、次の定時決定まで待っていては、実際の給与額と社会保険料に大きなズレが生じてしまいます。そのズレを解消するために、給与が大きく変わったタイミングで標準報酬月額を見直す手続きが「随時改定」です。この手続きの際に提出する書類が「月額変更届」と呼ばれます。

随時改定は、以下の3つの条件をすべて満たした場合に行う必要があります。

  1. 昇給・降給などにより、固定的賃金に変動があった。
  2. 変動月以後3ヶ月間の給与の平均額と、現在の標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
  3. 3ヶ月とも、支払基礎日数が17日以上である。(※特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)

言葉が少し難しいですが、「給与の基本給や手当などが変わり、それによって社会保険料の等級が2段階以上変わる場合は、手続きが必要」と覚えておきましょう。

【要注意事例】給与ソフトが見逃す「働き方の変更」という落とし穴

さて、ここからが本題です。随時改定で見落としがちなのが、最初の条件である「固定的賃金の変動」の解釈です。

多くの給与計算ソフトは、「基本給」や「役職手当」などの金額が直接変更された場合に「固定的賃金が変動しました」と警告を出してくれます。しかし、次のようなケースではどうでしょうか?

事例:パートタイマーAさんの勤務時間が変更になったケース

  • 変更前:時給1,200円、1日6時間(9:00~15:00)、月20日勤務
  • 変更後:本人の希望で、1日8時間(9:00~18:00)勤務に変更。時給や勤務日数は変わらず。

この場合、Aさんの「時給」は1,200円のままです。そのため、給与ソフト上では単価の変更がなく、固定的賃金の変動として認識されず、アラートが出ないことがほとんどです。

しかし、社会保険の手続き上、これは「固定的賃金の変動」に該当します。

なぜなら、時給は同じでも「1日の所定労働時間」という、給与計算の基礎となる契約内容が変更されたからです。これにより、月々の給与額が大きく変動します。

実際に計算してみましょう。

  • 変更前の月給(目安) 1,200円×6時間×20日=144,000円
  • 変更後の月給(目安) 1,200円×8時間×20日=192,000円

この月給額の変動により、標準報酬月額の等級が2等級以上変わる可能性が非常に高くなります。もし、この変更に気づかずに随時改定の手続きを忘れてしまうと、どうなるのでしょうか?

手続きを忘れると、こんなリスクが…

随時改定を失念してしまうと、会社と従業員の双方にデメリットが生じます。

  • 従業員側のリスク:本来よりも低い社会保険料を納め続けることになるため、将来受け取れる年金額が減ってしまう可能性があります。また、病気やケガで仕事を休んだ際の傷病手当金の額も低くなります。
  • 会社側のリスク:年金事務所の調査などで発覚した場合、過去に遡って差額の保険料を追徴される可能性があります。会社負担分はもちろん、従業員負担分も立て替えて納付し、本人から徴収する必要があり、事務的な負担と金銭的な負担が同時に発生します。

たった一つの見落としが、将来の大きなトラブルに繋がりかねないのです。

給与ソフトに頼りきらないための対策

では、このような見落としを防ぐためには、どうすれば良いのでしょうか。

一番の対策は、「給与ソフトの計算結果を鵜呑みにしない」ことです。そして、従業員の働き方に変更があった際は、必ず以下の点を確認する習慣をつけましょう。

【チェックポイント】

  • 従業員の雇用契約書の内容に変更はなかったか?
    • 基本給、時給、日給の単価変更
    • 所定労働時間や日数の変更
    • 正社員からパートへ、パートから正社員への区分変更
  • 手当の内容に変更はなかったか?
    • 通勤手当、家族手当、住宅手当などの新設・廃止・金額変更

特に、時給制や日給制の従業員の「所定労働時間」や「所定労働日数」の変更は、今回ご紹介したように非常に見落としやすいポイントです。給与明細の数字だけを見るのではなく、その元となる雇用契約の内容まで立ち返って確認することが重要です。

【まとめ】専門家の視点で、安心の労務管理を

今回は、給与ソフトだけでは気づきにくい随時改定の落とし穴について解説しました。従業員の働き方が多様化する現代において、こうした労務管理の「気づき」はますます重要になっています。

「うちの会社のやり方で本当に合っているか不安…」 「毎月のチェック作業が負担になっている…」

もし少しでもそう感じたら、私たち社労士にご相談ください。専門家の視点で、貴社の給与計算や社会保険手続きを正確にサポートし、見えないリスクから会社と従業員を守ります。

ぜひお気軽にお問い合わせください。


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