給与計算ミス、慌てないで!事業主が知っておくべき実務対応と誠実な従業員対応【お詫び文例付き】

title

会社経営には様々な業務がありますが、中でも従業員の生活に直結する「給与計算」は、非常に重要かつ神経を使う業務ですよね。

どんなに気をつけていても、「うっかりミス」は起こってしまうもの。「給与計算を間違えてしまった!」そんな時、焦ってしまう気持ち、とてもよく分かります。

でも、大丈夫です。ミスは誰にでもあります。大切なのは、ミスが発覚した後に迅速かつ誠実に、そして正確に対応することです。

この記事では、給与計算ミスが起こってしまった際に、事業主としてどのように対応すれば良いのか、具体的な実務手順と、従業員への心遣いある対応方法について、分かりやすく解説していきます。いざという時に慌てないよう、ぜひ最後までお読みください。

給与計算ミスに気づいたら?まずやるべき3つのこと

給与計算ミスが発覚! まずは何をすべきでしょうか? パニックにならず、以下の3つのステップで落ち着いて対応しましょう。

  1. 冷静に事実確認
    • まずは深呼吸。焦りは禁物です。
    • 「いつの給与か」「誰の給与か」「どの項目で」「いくら」間違えたのか、具体的な内容を正確に把握します。
    • 給与明細、勤怠記録、雇用契約書など、関連書類を確認し、ミスの原因を特定しましょう。計算ミスなのか、入力ミスなのか、制度の解釈違いなのか、原因によって対応も変わってきます。
  2. 影響範囲の確認
    • そのミスが、他の従業員にも影響していないか確認します。特定の従業員だけのミスなのか、計算方法や設定のミスで全従業員に関わるのかを切り分けましょう。
    • 社会保険料や所得税、住民税などの計算にも影響がないか確認が必要です。
    • 過去の給与計算にも同様の間違いがなかったかを確認します。影響が広範囲に及ぶ場合は、対応計画を立てる必要があります。
  3. 関係部署への迅速な情報共有
    • 経理担当者、人事担当者など、関係する部署や担当者へ速やかに情報を共有し、対応方針を協議します。一人で抱え込まず、チームで対応することが大切です

【ケース別】具体的な実務対応

給与計算ミスには、大きく分けて「本来より少なく支払ってしまった(不足払い)」ケースと、「本来より多く支払ってしまった(過払い)」ケースがあります。それぞれの対応方法を見ていきましょう。

ケース1:給与を少なく支払ってしまった場合(不足払い)

従業員にとっては、受け取るべき給与が少ないという、非常にデリケートな問題です。迅速かつ丁寧な対応が求められます。

  1. 不足額の正確な計算
    • まずは、不足している金額を正確に計算します。残業代の計算漏れ、手当の未払いなど、原因を特定し、正しい金額を算出しましょう。
  2. 不足分の支払い
    • 原則として、可及的速やかに不足分を支払う必要があります。労働基準法第24条では「賃金全額払いの原則」が定められており、不足分は速やかに支払う義務があります。
    • 支払い方法は、以下のいずれかが考えられます。
      • 次回の給与支払い日に、通常の給与と合わせて支払う: 従業員に説明し、同意を得た上でこの方法をとるのが一般的です。給与明細には、調整額であることを明記しましょう。
      • 別途、速やかに現金または振込で支払う: ミス発覚後、できるだけ早く支払う方法です。従業員の状況によっては、こちらの方が望ましい場合もあります。
    • どちらの方法をとるにしても、必ず従業員に事前に説明し、理解を得ることが重要です。
  3. 社会保険料・税金の再計算と訂正
    • 不足分を支払うことで、その月の課税対象額や社会保険料の標準報酬月額が変わる可能性があります。
    • 源泉所得税や住民税、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)を再計算し、必要に応じて訂正の手続きを行います。特に、月をまたいで修正する場合は注意が必要です。
    • 年末調整にも影響が出る可能性があるため、記録をしっかり残しておきましょう。
  4. 遅延損害金について
    • 賃金の支払いが遅れた場合、本来は遅延損害金が発生する可能性があります(年14.6%が上限とされることが多いですが、退職後の未払い賃金には異なる利率が適用される場合もあります)。
    • しかし、事務処理上のミスで、速やかに不足分を支払う場合は、必ずしも請求されるとは限りません。とはいえ、法律上の考え方として頭に入れておきましょう。誠実な対応を心がけていれば、大きなトラブルになることは少ないはずです。

ケース2:給与を多く支払ってしまった場合(過払い)

こちらも対応が難しいケースです。従業員の生活設計に関わるため、一方的な返還要求はトラブルの原因になります。

  1. 過払い額の正確な計算
    • まずは、いくら多く支払ってしまったのか、正確な金額を計算します。
  2. 従業員への説明と返還のお願い
    • 最も重要なのは、従業員への丁寧な説明と理解を得ることです。
    • ミスがあったこと、過払いが発生していること、その金額と原因を誠実に説明し、返還のお願いをします。
    • 注意点: 会社が一方的に次回の給与から過払い分を天引き(相殺)することは、原則として労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)に違反する可能性があります。必ず従業員の同意を得てから返還方法を決めましょう。
      • ただし、調整的相殺といって、①過払いのあった時期と賃金清算の時期が近い、②事前に予告されている、③金額が多額でない、などの条件を満たす場合は、翌月の給与で相殺することが認められるケースもあります。しかし、トラブル防止のためには、やはり個別の同意を得るのが最も安全です。
      • 賃金控除に関する労使協定(労働基準法第24条第1項ただし書き)がある場合は、その内容も確認しましょう。
  3. 返還方法の協議
    • 従業員の生活状況を考慮し、返還方法を話し合います。
      • 次回の給与から控除する(従業員の同意が必要)
      • 現金または振込で返還してもらう
    • 金額が大きい場合は、分割での返還も検討するなど、従業員の負担にならないよう配慮することが大切です。無理のない返済計画を一緒に考えましょう。
  4. 社会保険料・税金の訂正
    • 過払いがあった月の社会保険料や税金を多く納めている可能性があります。
    • 正しい給与額に基づいて再計算し、必要に応じて還付請求などの手続きを行います。
    • 年をまたいでいる場合は、年末調整の修正や確定申告が必要になることもあります。税務署や年金事務所、ハローワークなどに確認しましょう。
  5. 時効について
    • 会社が従業員に対して過払い分の返還を請求できる権利(不当利得返還請求権)には時効があります。民法改正により、2020年4月1日以降に発生した過払いについては、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」のいずれか早い方となります。時効が迫っている場合は、早めに対応が必要です。

何よりも大切なのは「従業員への誠実な対応」

実務的な手続きも重要ですが、給与計算ミスにおいて最も大切なのは、従業員への誠実な対応です。給与は従業員の生活の糧であり、信頼関係の基盤です。ミスが発覚したら、以下の点を心がけましょう。

  1. 迅速な報告と心からのお詫び
    • ミスが判明したら、できるだけ早く、直接、該当する従業員に報告し、誠心誠意お詫びします。「間違いは誰にでもある」という態度は禁物です。
  2. ミスの原因説明
    • なぜミスが起こったのか、原因を具体的に、かつ分かりやすく説明します。原因を明らかにすることで、従業員の不信感を和らげることができます。
  3. 具体的な訂正内容と今後の対応スケジュールの明示
    • 不足払いであれば「いつ、いくらを、どのように支払うのか」、過払いであれば「いつ、いくらを、どのように返還していただきたいのか(相談の上)」を具体的に伝えます。今後のスケジュールも明確に示しましょう。
  4. 質問や不安に丁寧に答える
    • 従業員が抱える疑問や不安に対して、真摯に耳を傾け、丁寧に回答します。「会社はちゃんと対応してくれる」という安心感を持ってもらうことが重要です。
  5. 書面での通知
    • 口頭での説明に加え、お詫びと訂正内容を記載した書面(「お詫びと訂正のお知らせ」など)を渡すと、より丁寧な印象を与え、記録も残ります。

【お詫びと訂正のお知らせ(文例)】

状況に合わせて内容は調整してください。

<不足払いの場合>

〇〇様

お詫びと給与支払額訂正のお知らせ

拝啓

時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、〇月〇日にお支払いいたしました〇月分給与(〇月〇日締め)につきまして、弊社の計算誤りにより、下記の通り不足額が生じていることが判明いたしました。

多大なるご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に申し訳なく、深くお詫び申し上げます。

つきましては、不足しておりました金額〇〇円を、〇月〇日支給の〇月分給与にて合わせてお支払いさせていただきたく存じます(または、別途〇月〇日にご指定の口座へお振込みいたします)。

給与明細には「〇月分給与調整額」等として記載させていただきます。

今後はこのようなミスのないよう、チェック体制を強化し、再発防止に努めてまいりますので、何卒ご容ろしくお願い申し上げます。

ご不明な点がございましたら、担当〇〇までお気軽にお問い合わせください。

敬具

〇〇年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇 (または 担当者名)

<過払いの場合>

〇〇様

お詫びと給与支払額訂正に関するお願い

拝啓

時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、〇月〇日にお支払いいたしました〇月分給与(〇月〇日締め)につきまして、弊社の計算誤りにより、本来お支払いすべき金額よりも〇〇円多くお支払いしていたことが判明いたしました。

弊社の不手際により、〇〇様にご迷惑をおかけいたしますこと、誠に申し訳なく、深くお詫び申し上げます。

つきましては、大変恐縮ではございますが、過払いとなっております〇〇円をご返還いただきたく、お願い申し上げる次第です。

ご返還方法につきましては、〇〇様のご都合も考慮させていただき、ご相談の上、決めさせていただければと存じます。(例:次回の給与より調整、別途お振込み等)

後日改めて、担当〇〇よりご相談のお時間を頂戴できますでしょうか。

今後はこのようなミスのないよう、チェック体制を強化し、再発防止に努めてまいりますので、何卒ご理解ご協力賜りますようお願い申し上げます。

ご不明な点がございましたら、担当〇〇までお気軽にお問い合わせください。

敬具

〇〇年〇月〇日
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇 (または 担当者名)

もう繰り返さない!給与計算ミスを防ぐための予防策

ミスが起こってしまった後は、その原因を分析し、再発防止策を講じることが不可欠です。

  • チェック体制の強化
    • 担当者一人だけに任せず、必ず複数名でダブルチェック、トリプルチェックを行う体制を構築する。
    • チェックリストを作成し、確認漏れを防ぐ。
  • 給与計算ソフトの活用と管理
    • 信頼できる給与計算ソフトを導入・活用する。
    • 法改正や保険料率の変更に合わせて、ソフトを常に最新の状態にアップデートする。
    • 設定ミスがないか定期的に確認する。
  • 担当者の知識・スキルアップ
    • 給与計算に関する研修を実施したり、外部セミナーへの参加を奨励したりして、担当者の知識やスキルを向上させる。
    • 労働基準法や税法、社会保険制度などの関連法規について、常に最新情報を収集する意識を持つ。
  • 勤怠管理の正確性向上
    • タイムカードの打刻漏れや誤りを減らす。勤怠管理システムを導入するのも有効。
    • 残業時間や休暇取得状況などを正確に把握できる仕組みを作る。
  • 法改正・保険料率変更の情報収集
    • 毎年のように行われる法改正や社会保険料率の変更情報を、厚生労働省や日本年金機構などの公式サイト、専門家の情報などを通じて確実にキャッチアップする。
  • 給与計算はプロにお任せ!弊社社労士事務所にご相談ください
    • 「毎月の給与計算業務が負担」「法改正への対応が不安」「ミスがないか心配」…そんな事業主様のお悩みを、私たち社労士事務所ぽけっと が解決します! 給与計算のアウトソーシングにより、事業主様はコア業務に専念でき、ミスの心配からも解放されます。経験豊富な専門家が、正確かつ迅速に、そして貴社の状況に合わせた最適なサポートをご提供いたします。まずはお気軽にご相談ください。

【まとめ】ミスは誰にでもある。大切なのはその後の対応

給与計算ミスは、どんなに注意していても起こりうるヒューマンエラーの一つです。しかし、ミスが起こった際に、迅速かつ誠実に対応し、正確な訂正処理を行うことで、従業員との信頼関係を守り、問題を最小限に抑えることができます。

そして何より、同じミスを繰り返さないための再発防止策をしっかりと講じることが、事業主としての責任です。

給与計算は、従業員のモチベーションや生活に直結する大切な業務です。日頃から正確性を期すことはもちろん、万が一ミスが発生した場合の対応フローを事前に確認しておくことで、いざという時にも落ち着いて対処できるはずです。

もし、給与計算ミスの対応でお困りの場合や、今後の再発防止策としてアウトソーシングをご検討の場合は、ぜひ社労士事務所ぽけっとまでお声がけください。専門家の視点から、貴社に最適なアドバイスとサポートを提供し、事業主様が安心して経営に集中できる環境づくりをお手伝いします。

一人で抱え込まず、私たち専門家と一緒に、より良い会社運営を目指していきましょう。